参百廿.人食いトランプ
墨が分類した書類を丁寧に熟読し始めた雨を制して、とにかく書類に判をつくように促す墨。雨は微妙な表情をしながらも黙々と書類にはんこを押していった。
ああ、なるほど。こういうのが刺身にたんぽぽってことなんだな。勉強になった。
墨「雨さま、こっちもお願いします」
雨(あ、はい)
そうしてみるみるうちに書類の山が減っていく。もしかして、雨より墨のほうがここの仕事は適任なんじゃないか?
黙々と作業をする2人の隣で1人手持ち無沙汰の俺は、部屋の隅にトランプを並べてクロンダイクをすることにした。ただしこのトランプ、時々噛んだり火を吹いたりするので気をつけないといけない。
え、手伝ったらどうかって? 墨の仕事に手を出すと、逆に効率が悪化しそうでためらったのだ。それにはんこは神様である雨しか押せないしね。
武甕槌(天児屋、次の会議……)
俺「あ、こんにちは、おじゃましてますわ」
次の会議に雨を呼びに来た武甕槌は、部屋のカオスな状況を見てしばらく目を点にして絶句していた。
墨が次々と書類を読んで雨に指示を飛ばし、雨はそれを受けて黙々と判をついていくのみ。俺はというと部屋の隅で時々火を吹いたりするトランプでクロンダイクをしているという状況を見て、ある一言を思わないものはいないに違いない。
――どうしてこうなった?
武甕槌(……ああ、かぐや姫か。これは一体?)
俺「ちょうど墨の意外な才能を発見したところよ」
墨がこんなに書類仕事に強いなんて知らなかったよ。もともと猫なんだけど、使い魔にしたことで何かが突然変異したのかな。猫娘化したときも突然だったし、考えてみれば墨って結構謎なやつだよな。
武甕槌(ま、まあ、ともかく、天児屋はこれから会議だ。詳しい話はそれが終わった後に聞こう)
そう言って、武甕槌ははんこマシーンになっていた雨を連れて出ていってしまった。
俺「墨って実は仕事できるのね」
墨「自分でも予想外です。でも、これ、そんなに難しいことなんですか?」
俺「それを雨の前で言ったら、雨、泣いちゃうよ」
その後、応接室に案内されてお茶と菓子を出された。信じられない。女の子にこんなにお菓子を出すなんて。またお菓子食べ過ぎて太っちゃうよ。げっぷ。
武甕槌たちを待っている間、俺と墨はお菓子を食べながら人食いトランプでババ抜きをすることにした。カードを掴むと1/3の確率で指を食べにくるので、それをいかに躱すかというサバイバルなゲームなのだ。
武甕槌(お待たせした)
俺「遅い」
会議が終わって武甕槌たちが来たのはそれから2時間ほど経ってからだった。もう絶対太ったんだよっ。ぷんぷん。
雨(墨さま、お願いがあります)
墨「な、なんでしょう?」
雨(僕を助けてくださいっ)
雨は墨の顔を見るなり全力土下座をした。その様子を見て墨がドン引きしている。