参百拾玖.16対64
その部屋は一面紙の山、山、山だった。
しかも、低級神はひっきりなしに新しい紙を持ってきては山の上に紙を積み上げて、別の山から少しだけ紙を取って帰っていく。持ってくる量と取っていく量が釣り合っていないので紙の山は増える一方だ。
俺「雨、いるかしら?」
雨(ご、ご主人さまぁ)
紙の隙間から弱々しい声(念話)が漏れてきた。どうやら雨の居場所はここで間違いないらしい。
しかし、紙の山が邪魔で声のところまで近づくことができない。
俺「雨、近づけないわ」
雨(隣の部屋から回ってきてください)
アドバイスにしたがって隣の部屋からぐるっと回って来ると、積み上げられた紙の山から紙を1枚ずつ取って中身を確認して分類し、神力の通ったはんこを押すという作業を泣きながらこなしている雨の姿があった。
俺「どうなってるの、これ?」
雨(会議のない時間はこの紙を読まなきゃいけないんだけど、読んでも読んでも終わらないんだよぉ)
俺「それにしてもすごい量ね」
雨(初めは机の上にどっさりってくらいだったのに、いつの間にか部屋中が紙だらけになってて、もう1部屋に収まりきらなくなるのも時間の問題だよ)
俺「ひどいね」
雨(そうだよ。ひどいよ。横暴だよ。武甕槌はバカだよ)
俺「というか、雨の処理速度が遅すぎるんだわ。16ビットマイコンだわよ」
雨(僕はそんなに遅くないよっ)
という会話の間、雨の手は完全に止まっていた。その間にも紙の山はどんどん高さを増していく。
雨(ああっ、ダメだよ、墨。触ったら山が崩れるよっ)
雨の声にふと見ると、墨が紙の山に近づいて山の頂へと手を伸ばしていた。雨はそれを制止しようとしているが、もう完全に手遅れだった。
倒れるっ……
と思った瞬間、墨は手際よく紙の山から書類を1枚ずつ取り上げて、ものすごい勢いで分類し始めた。
俺「……こっちは64ビットね」
墨「雨さまはこっちの書類にはんこをお願いします」
雨(え、どれどれ?)
墨「これです。中身は簡単な申請ばかりなので、はんこを押すだけでいいですから」
雨(あ、はい)
ちゃんと出来ているのかと書類を一枚取って見てみると、中身は職員の有給休暇願だった。しかも上長のはんこがすでに押されている。次は備品使用許可願。上長と総務のはんこはすでに押されていた。
墨「雨さま。読まなくていいんでどんどん押していってください。もう全部読みましたから」
雨(あ、はい、すみません)