参百拾陸.約束
中宮「ところで、かぐや姫さま」
3人の結束を再確認したところで、中宮が再び俺の方へ向き直って問いただした。
中宮「月の国へ帰るという噂は本当なのですか?」
俺「はい。その通りです」
そのやり取りを聞いて、空は表情を固くしていた。空が3人の中で1人だけ真相を知っているのだ。折角友情を確認しあったところなのに秘密を作らせてしまって心苦しい。
中宮「では、かぐや姫さまは月の人だったのですか?」
俺「そういうことになります」
中宮「月とはどういうところなのでしょうか?」
む。月がどういうところか? 重力が軽くて空気がなくて水もなくてクレーターだらけで日なたは灼熱で日陰は極寒とか、そういうことを聞きたいわけじゃないよね。
俺「まず、人は80歳位まで生きます。室内は夏は涼しく冬は暖かく、食べ物は常に新鮮で綺麗な水が好きなだけ使えます。誰にでも」
こう言ってみると、本当にすごいところだな、現代って。ほとんど神の国じゃないか。
中宮「そうですか。そんなところならかぐや姫さまが帰りたくなるのは当たり前ですね」
明子「中宮さま!?」
中宮の言葉を聞いて明子が慌てているが、中宮は素知らぬ顔で話を続けた。
中宮「ただ、もし私たちのことを気にかけていただけるなら、どうか帰る前に明子の悩みを解決していただけませんか? 明子は私には悩みのことはどうしても打ち明けてくれませんが、かぐや姫さまならあるいはと勝手に期待しています」
そういえば、俺が次期天皇になるという話で、明子への入内の圧力が減ると期待されていたのだけれど、俺が月の国へ帰るということになってその話が流れたら、また明子が入内するという話が再燃するに違いない。
権大納言と結婚させるというところまでは時間的に無理だけど、関白に明子の入内を諦めさせるというくらいのところまではしてあげたいな。そうすれば、少なくとも明子と中宮が政治的に対立することはなくなるし、明子の頑張りで権大納言と結婚することもできるだろうし。
どうやって諦めさせるか具体的なアイデアはまだないけど、何も思いつかなければ帝の男性機能を無力化してしまえばどうにかなるだろ。天皇の世継ぎは中宮のお腹の中にいるしね。
俺「もちろん、どこまでできるか分かりませんが、私にできる限りのことはしていきたいと思っています。明子さんも中宮さまも空も、私にとってはもう身内のようなものです。最後まで面倒は見ていきますわ」
明子「ありがとうございます」
その後は堅苦しい話は抜きにして、5人で和気藹々とガールズトークで盛り上がりまくりだった。お酒が出てきた時は雪に怖い顔をされたので遠慮しておいたけれど。
それから、この機会にまだ渡せていなかったアクセサリーを中宮にあげた。これで全員にアクセサリーを配り終えたことになる。ミッションコンプリート。
そんなこんなで結局明け方まで盛り上がった後、全員で体を寄せ合って雑魚寝して、昼前に御所を後にして家路につくことになったのだった。
中宮「かぐや姫さま、今日はお出でいただいて本当にありがとうございました」
俺「いえ、こちらこそお招きいただき感謝しております。そうだ、もしよろしければ今度体調のいい時に一度私の屋敷においでください。みんなでお風呂に入りましょう」
中宮「お風呂ですか?」
俺「はい。体を洗い清めて美しさに磨きを掛けるんですわ。最近は空も毎日入っているんです」
中宮「それは、道理で空さんが以前より綺麗になったと思っていたんですわ。ぜひ、伺わせてください」
俺「明子さんも、次はお風呂に入りましょうね」
明子「はい。ぜひとも」
よし。これで中宮と明子のお風呂ゲットだよ。現代に帰る前の最後のおみやげだよ。くふふ。