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参百拾伍.親友

 中宮からの呼び出しには雪と空を連れて行くことにした。


 空は大納言の失脚以来中宮とは連絡を取っていないので、今の身分に落ちてからは初めての対面となる。様子を伺うに大分緊張しているようだ。


 空「私のような立場のものが中宮さまにお会いしていいものなのでしょうか?」

 俺「いいんじゃないかしら」

 空「でも……」

 俺「そういう立場だからこそ会っておいたほうがいいと思うの。それに、もともと空のことをお願いしてきたのは中宮さまだったのよ」

 空「そうなんですか?」

 俺「ええ。騒動の最中、心配してわざわざ手紙で空の面倒を見れないかと頼んでいらっしゃったの」


 そして、俺と雪と空は中宮の待つ御所へと向かった。一行は牛車3台に分乗して行くことになった。空は牛車に乗ることに抵抗していたが、無理矢理乗せてしまった。


 御所では中宮だけでなく、明子も待っていた。これで五節舞の時の面子が久しぶりに揃ったというわけだ。


 俺「お久しぶりでございます、中宮さま。お体の方はいかがですか?」

 中宮「お久しぶりです、かぐや姫さま。おかげさまで元気に過ごさせていただいておりますわ」


 中宮はまだ傍目に分かるほどにはお腹は大きくなってはいない。中宮の懐妊は弥生中頃のことだと思われるのでまだ5ヶ月だ。そろそろ悪阻が終わって安定期に入る頃だろうか。


 空「中宮さま。その節は本当に申し訳ありませんでした」


 俺と中宮が挨拶するのを待って、空は中宮の目の前に平伏して謝った。


 中宮「寛子さん、いえ、今は空さんでしたか。お顔を上げてください」

 空「いいえ。この度、父のしたことはとても許されることではありません。いくら娘を入内させることに焦っていたとはいえ、中宮さまとそのお子さまを呪うなどと」

 中宮「確かにそのことについては残念に思います。しかしそれは空さんのお父さんがしたことで空さんの責任ではありませんから」

 空「しかし……」

 中宮「空さん。私は子供が欲しくはありましたが、それは夫と私の間の子供が欲しかったわけであって、次期天皇が欲しかったわけではありません。正直、そのような政争については少々飽き飽きしています。空さんも同じではありませんか?」

 空「それは……」

 中宮「結婚については殿方の都合で勝手に決めるだけ。しかも夫婦の営みにまで口を出されて、女性はあなたも私もみな被害者なんですよ」


 中宮はなんだかえらく立腹している様子で、さらに明子もその隣でうんうんと頷いている。


 明子「空さん、あなたのお父さまは確かに大変なことをしたとは思うわ。でも、その罪をあなたまで背負う必要はないと思うの」

 中宮「私たちは同じくらいの歳で似たような境遇で育ったかけがえのない3人なの。周囲の都合で反目し合うこともあったけど、私たちは手を取り合うべきだと思うのよ」

 空「中宮さま、明子さま」


 ようやく顔を上げた空が感極まって両目からぽろぽろと涙をこぼすと、中宮と明子が左右から空の側に近寄って、顔を寄せ合って3人とも声を上げて泣き始めた。


 雪「空さん、よかったですわね」


 見ると、もらい泣きなのか雪まで目尻にうっすらと涙を浮かべている。


 俺「そうね。よかったわ」


 俺がいなくなって加護の力が弱まった後、後ろ盾のない空がどうなるか少し心配だったが、中宮と明子がなんとかしてくれるだろうと思った。

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