参百拾弐.愛の言霊
とにかく、これで神様サイドの話は一段落した。後は人間サイドの話を纏めれば後の憂いなく現代に帰れる。
と言っても、おおっぴらに現代に帰るとは言えないので何かそれっぽい言い訳を考えておかないと。やっぱり、竹取物語の連想で月に帰るという理由がいいかな。
ああ、そういえば、雨の件がまだあった。雨を春日神社のヘルプに派遣しないといけないんだった。
俺「雨」
雨(な、何、ご主人様)
俺「あなた、春日神社に戻りなさい」
雨(なんでさっ)
俺「大国主が倒れて春日神社の人手が足りないのよ。もうしばらくしたら武甕槌と交代するんだから仕事のやり方に慣れておいた方がいいと思うのよね」
雨(ちょっと待て。僕は武甕槌の代わりをやるなんて一言も言ってないぞ)
雨はまたそんなことを言って逃げ腰になっているが、もう言質は取ってあるんだから逃がしはしないよ。
俺はふふんと鼻を鳴らして胸元から秘密兵器を取り出した。
俺「これを見て」
雨(カメラ?)
俺は手早くカメラを操作して中に記録されている情報を再生した。
――雨(ぼ、僕もさ、これまでよりもうちょっとだけ仕事とかしてみてもいいかなって)
それは雨が家出から帰ってきた時の会話を録画したものだった。
俺「デジカメってビデオ録画の機能もついてるのよ。知ってた? このカメラはさらに念話録音機能まで付いてるの」
雨(い、いつの間に撮ったんだ!?)
俺「大国主に雨が帰ってくるって聞いて、こんなこともあろうかと胸元にカメラを仕込んでおいたの。雨はいつも私の胸を見てるから、ばっちりカメラ目線で映ってるね」
それにしても雨は本当にずっとカメラ目線だなー。
俺「仕事をするって言ったんだから、仕事をしてもらうよ」
雨(そ、そんなのちょっとした仕事の真似だけのつもりだったんだし、今は気が変わってやっぱりあんまり仕事なんてしたくないし)
俺「そ。じゃあ、これはなんでしょうか」
俺は小さな瓶を取り出して目の目の前で振って見せた。
雨(もしかして僕に一服盛って手ごめにして、ビデオを撮って脅すの!?)
俺「誰がそんなことするのよ!!」
大体、そんなの雨にとってはただのご褒美じゃないか。
俺「雨は言霊という言葉に聞き覚えはないかしら」
雨(まさか……)
俺「この瓶の中にはあの時の言霊が入ってるのよ。これを私が持っているということはどういうことか分かるわよね」
雨(返せっ)
俺「だめよ」