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参百拾.初めて

 天照『んー』

 俺『……どうした?』

 天照『いやー、ちょっとね』

 俺『何?』

 天照『雪ちゃんは姫ちゃんに愛されてるなって思ってね。嫉妬しちゃうな』

 俺『なっ、何を言ってるんだよ』

 天照『別に雪ちゃんでもいいんだけど、一つ条件をつけてもいい?』

 俺『なんかまた碌でもないことじゃないだろうな』


 天照が条件をつけるなんて、絶対に何か企んでいるに違いない。絶対に何か面倒なことを言い出すに違いないが、一体何を言われるのやら。


 天照『雪ちゃん、今晩一晩、姫ちゃんの体をあたしの好きにしてもいいかな?』

 俺『ちょっと待てっ。なんだその「好きにする」って言うのはっ』

 天照『好きにするってことは要するにそういうことだよ。やだもう、女の子にこれ以上言わせないでよ』

 俺『何をバカなことを言っている!』

 天照『あたしの初めて、姫ちゃんに、あ・げ・る』

 俺『なっ、なっ、なっ』


 天照はしなを作って俺の胸を人差し指でつついてきた。


 何か言い返してやりたいが、うまい言葉が思いつかず、ただバカみたいにぱくぱくと口を動かすだけになっている。


 大体、俺と天照は女同士じゃないか。女同士で何をどうやってするつもりなんだ。いやいや、女同士でもいろいろやりようはあるはずだけど、今はそういう話をしてるんじゃなくて……。


 勝手に天照とそんな関係になったら雪に申し訳ない。ってことは、雪がOKならいい? んなわけないじゃんっ。


 でも、天照は俺のこと好きなんだよな。だったら、一晩くらい許してあげるべき? 待て待て、何を考えているんだ、俺は。


 雪「……いいですよ」

 俺「雪!?」

 雪「天照さまは今の姿でいられるのはもうそんなに長くないわけですから、今の体で遂げておきたい思いがあれば、今やっておくしかないと思うんです」


 ああ、そうか。同化を解いたら天照は自分の体を失うんだもんな。その後は他人と共有した体しかなくなってしまう。秘密も全て共有しないといけない。


 って、それは雪も同じなんじゃないか?


 雪「もちろん、かぐや姫さまがお嫌でなければですが」

 俺「あの、雪はいいの?」

 雪「ええ、いいですよ」

 俺「そうじゃなくて、雪は私とそういうことはしなくてもいいの?」


 俺がそう問いかけると、雪はぱっと頬を赤くした。


 雪「わっ、私は、その、かぐや姫さまがお望みとあれば、いつでも……」

 俺「あっ、そっ、そうか」


 恥ずかしそうにそんなことを言うとこっちまで変な気分になるよっ。


 天照『あのー、もしもし? こらー。私を無視するなーっ!!』

 俺『ひたひ、ひたひ、ひゃめれ』


 突然切れた天照が、俺のほっぺたを引っ張ってきた。力が強いんだから本当に痛いんだからね。


 雪「でも、私は今日の口吸いで十分満足しています」

 俺「え? そうなの?」

 雪「はい。あのようにかぐや姫さまのほうから積極的に私を求められたのは初めてでしたので」

 俺「あー」


 あの時は雪と密着しててなんか変な気分になってたんだよな。ちょっと強引で雪は怒ってるかもと思ったんだけど、逆だったんだ。


 雪「正直、空さまを使い魔になさる時に口を吸われたのを見て、羨ましいと言う思いが止められなかったのですが、今日のことでその思いも遂げられましたので」


 うわぁぁ。あの時は双六のやりすぎでグロッキー気味で何も考えてなかったんだよー。でも、あれだよ、あれはほんのちょっとチュってやっただけの可愛らしいキスだよ。ただの挨拶みたいなもんだよ。

「口(を)吸う」という表現は平安時代の文献にも出てくるそうです。意外にキスは日本でも昔からあったんですね。

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