参百伍.抗議
俺「私の体に天照の人格が入るの。そうね、憑依って言うのが近いのかしら」
雪「そんなことになったらかぐや姫さまは……」
俺「私の人格も残るわ。つまり、1つの体に2人の心が入るのよ」
雪「どうしてそんなことになっているんですか? 私、何も聞いていません!」
珍しく、雪が涙まで浮かべて本気で怒っている。
俺「ごめん、雪。最近、いろんなことが立て続けに起こってたせいで、雪にちゃんと説明するのを忘れてた。本当はこんな大事なこと、雪に真っ先に話をしなきゃいけなかったのに」
雪「いっ、いえ、私こそ、つい感情的になってしまって。私はかぐや姫さまのお決めになったことなら何でも受け入れる覚悟でしたのに……」
俺「雪……」
雪「ただ……、私は、かぐや姫さまがご無理をなさっていないかと心配で、心配で」
俺「ごめんね。今更だけど、ここ数日、何が起きたのかきちんと説明するよ。墨も空も大事なことだから一緒に聞いて」
そうして、俺は大国主が倒れて以降に起きた事の顛末を細かに説明した。
雪、墨、空は俺の説明を真剣な面持ちで聞いていた。雨もそれにつられて一応きちんとじっと話を聞いているようだ。
俺「だから、期日は来月の満月の日。解放された天照の魂は私の体に憑依して、私と雪は現代に転移するの」
雪「あの、天照さまの憑依する体はかぐや姫さまでなければならないのですか?」
俺「一応、天照の加護を強く受けている相手ならいいみたいだけど」
雪「なら、例えば私でも可能なのですね」
俺「えっ?」
そうか。うっかり忘れてたけど、雪は天照の加護を持っていた。いつぞに天照から直接貰って、それ以降、俺の魅力で失神したりはなくなったんだっけ。
俺「多分、可能だとは思うわ。一応、詳しいことは大国主に確認してみないとわからないけど」
雪「でしたら、私が天照様を受け入れます」
空「えっ」
墨「にゃっ」
雨「えっ」
俺「ええっ!」
雪の発言にその場にいた全員が驚いた。もちろん、一番驚いたのは俺だ。
俺「何言ってるの、雪?」
雪「かぐや姫さまだけにつらい役目を押し付けるわけにはいきません。私にも手伝わせてください」
俺「自分の体の中に他人がもう一人入ってくるんだよ?」
雪「分かっています」
俺「失敗したら体が爆発するかもしれないんだよ!?」
雪「だったらなおさらですっ!」
あれ、なんか余計に雪を怒らせちゃったみたいなんだけど。
雪「かぐや姫さまはご自分のことを何も考えなさすぎです。全部自分で背負い込むことなんてないんですよ。都合が悪かったら断ってもいいし、やりたくなかったら人に押し付けてもいいんです」
俺「いや、でも、天照のことは誰かがやらないと世界の滅亡に関わることだし」
雪「だとしてもです。少なくとも、せめて私にだけは相談してください。私だけは何があってもかぐや姫さまのことを最優先でお考えしていますから。
確かに、私は天照様の加護をいただいたというのに魔法も使えませんし、神様にも貴族様にも伝手があるわけではありません。ですが、かぐや姫さまを想う気持ちだけは誰にも負けないと思っているんです」