参百弐.クーデター
武甕槌(しかし、月詠様が)
大国主(月詠様は天照様の同化を解いてしまえば何も言っては来ませんよ)
武甕槌(それはどういうことだ?)
大国主(月詠様の性格上、天照様がいなくなればそのまま隠居なさると思います。もちろん、直前までは全力で抵抗なさるでしょうけど)
つまり、大国主は月☆読の許可なんて取らないで、出し抜いて勝手に天照を解放してしまえと。そうすれば月☆読は意気消沈してやる気をなくすから問題なしと言っているのか。
く、黒い。黒すぎる。
武甕槌(しかし、月詠様が隠居なさったら高天原が大混乱に)
大国主(そこは武甕槌が手綱を引き締めればいいだけでしょう?)
武甕槌(それはクーデターだ)
大国主(そうです。でも、どの道、月詠様が天照様の封印の解除に同意なさることはどれだけ待ってもないと思いますから、高天原の破滅を避けるためにいずれはクーデターを起こすしかないじゃないですか)
武甕槌(それは……、そうかもしれない)
ちょっと待て。なんかすごい話になってないか? 俺、天界のクーデターの片棒を担がされることになってんじゃないの?
俺「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。そんな話、ここで決めちゃっていいことなの?」
大国主(むしろ、こんな危ない話、ここ以外じゃできないでしょう)
俺「そんなこと言ってるんじゃなくて」
大国主、そこで笑うなっ。
大国主(いいんですよ。どっちみち、今でも高天原の実務のかなりの部分は武甕槌が監督してるんですから)
俺「え?」
大国主(昔はともかく、今は高天原と葦原中国との力関係は葦原中国の方が実質的に上です。高天原は隠居した神様のリゾート地みたいな状況になりつつあって、政治的な関心は薄いんですよ)
俺「そうなの?」
武甕槌(認めたくはないが当たっている。ただ、高天原がなくてもいいわけではない)
大国主(だからこそ、武甕槌には頑張って貰わないと)
武甕槌(むぅ)
武甕槌は再び考え込んだ。その間に俺ももう一度この事について考えてみる。
天照の人格を受け入れるという事については、実のところそこまで拒否感はない。まあ、仕方ないか、という気持ちだ。むしろ、天照の方がどう思うかが心配だ。特に、現代に戻って俺が男に戻った後に。
月☆読に対しては……、正直あまり同情しない。結局天照が苦しむ元凶になったのが月☆読なわけで、天照がいなくなってショックを受けても、それは月☆読が本来何百年も前に受け入れるべきだった苦しみだったのだと思うのだ。
高天原の政治のことはいまいちよくわからない。まあ、これは武甕槌がなんとかしてくれるのだろう。
でも、武甕槌が高天原をメインにしたら、葦原中国は誰が監督するんだ? 大国主の後任も決まっていないのに、武甕槌までいなくなったら。
天照の同化を解くから大国主の後任はスサノオのサポートを受けたイッチーたちがやってくれるだろうけど、武甕槌の後任はもう当てなんてないしな。
武甕槌(とりあえず、私はもう一度月詠様を説得してみる)
大国主(うん)
武甕槌(並行して、この件について高天原で協力者を探ってみる。月詠様の返事が否定的なら、その時には……)
大国主(わかりました。とりあえず、期限を設けましょうか。後1ヶ月、来月の満月の夜に、天照様の同化解除の儀式を行いましょう)
武甕槌(分かった)
俺「ちょ、ちょっと待って。武甕槌の後任はどうするの?」
大事な話を決めないまま、これで解散、という流れになっていたので、慌てて武甕槌を引き止めた。




