参百壱.ラストチャンス
武甕槌(単刀直入に聞きたい。天照様の結界は後どのくらい持つのだ?)
大国主(長く見積もっても1000年以内には破裂すると思います)
武甕槌(1000年……)
大国主(ただ、周囲に被害を出さずに結界を解くことができる期間はその3分の1もないのではないでしょうか)
武甕槌(安全を考えれば300年以内にはケリをつけないといけないということか)
300年か。長いようで割りと短いような。……って、俺もだいぶ神様の時間感覚に汚染されてきたな。
武甕槌(それはもっと遅らせることはできないのか? 例えば、今空いている結界の穴をもう少し広げるとか)
大国主(これ以上広げると、天照様の分身の方への影響が無視できません。最悪の場合、分身の方が昔のように自我のコントロールを失う可能性もあります)
武甕槌(太陽からの神力の流入を制御することは?)
大国主(制御することは不可能です。唯一可能性があるのは天照様が太陽神を辞めることですが)
武甕槌(そんなことが可能なのか?)
大国主(どちらにしてもまず結界と同化を解く必要があります)
武甕槌(ああ……)
武甕槌は呻くような声を出して、そのまま黙ってしまった。
結局、この話は天照の同化の魔法を解くという話に収斂していく。というか、そもそもその同化の魔法がこの事態を引き起こした第一原因なのだから、それを解決するまでは全て対症療法にしかならない。
武甕槌(しかし、それは月詠様がお認めにはならない)
俺「もう月☆読に聞かれましたの?」
武甕槌(あの後すぐに聞いてみた。月詠様はたいそうご機嫌を損ねられて、その後それをなだめるのに大変だった)
俺「やっぱり」
武甕槌(最終的には月詠様の不機嫌な様子に気づいた天照様が空から隕石を落とされて、月詠様に止めを刺されたことで落ち着いたのだが)
俺「月☆読死んじゃったの!」
武甕槌(もちろんすぐに息を吹き返されたが、天照様を怒らせたことに反省なされてしばらくはしょんぼりなされていた)
自動復活のスキル持ちか!
とはいえ、その調子だと月☆読を説得するのは難しいな。
大国主(だけど、今はチャンスかもしれない)
武甕槌(どういうことだ?)
大国主(天照様が納得して人格の受け皿として受け入れられる人がいる状況は今を逃せば次はないかもということです)
武甕槌(うーん)
大国主の言葉を聞いて、武甕槌は唸ってしまった。
天照の同化を解くにあたって、元人間の天照の人格を受け入れるには天照の加護を持っている人間が必要だと言っていた。
今、天照の加護を持っているのは俺と、後は今、中宮のお腹にいる赤ちゃんくらいか。天皇家に代々伝わる加護は無視できるほど薄まっているだろうからな。
天照も見ず知らずの赤ちゃんに憑依なんてしたくないだろうから、確かに俺がこの時代にいるうちに同化を解くのがいいのかも。
俺「それは暗に私に天照を受け入れるように言ってますかしら?」
大国主(まあ、そうです)
俺「はあ、仕方ないですわね」