参百.ジト目
武甕槌(それは本当か……)
俺「……まあ、本当かと聞かれても、私は天照の結界は見たことがありませんし」
武甕槌(そうだろうな。といっても、私もそれほど頻繁に見るものではないからな)
ふむ。武甕槌は普段は春日神社にいるからな。月☆読ならいつも見てるんだろうけど。
武甕槌(しかし、としたら大国主はそのことをどうやって確認したんだ?)
俺「え?」
武甕槌(大国主はここ何百年も高天原には入っていないはずだ。大国主ほどの大物が高天原に来ていれば、私の耳に届かないはずがない)
俺「それは自分で確認しなくても天照に聞けばいいだけじゃないのかしら?」
武甕槌(え?)
真面目くさった顔から一転間抜けな顔になる武甕槌。もしかして武甕槌って意外と抜けてる?
武甕槌(た、確かに、天照様なら結界内の神力の状態をモニタリングすることくらい容易いな。もちろん、気づいていたとも)
俺「じとー」
武甕槌(すまん。見栄を張った)
武甕槌が見苦しい言い訳するのでジト目で見つめていると素直に謝った。思ったより可愛いやつだな。
武甕槌(それはともかく、天照様の同化を解くことの是非については私の一存では決められない。かと言ってこの話をすぐに月詠様に話しても受け入れては頂けないだろう)
俺「でしょうね」
武甕槌(それに、私自身、大国主に直接聞いてみたいこともある。かぐや姫、大国主は今、話ができる状態なんだろうか)
俺「ん、ちょっと待っていただけます?」
俺は素早く大国主に長距離念話をつないで武甕槌を含めて会談できるかを確認した。一応、それほど長い時間でなければ体を起こして話をするくらいは大丈夫とのことだった。
ちなみに、長距離念話はあらかじめ相手と魔法的な契約を結んでおかないといけないので、普通は使い魔のような相手としか通話できない。だから、武甕槌と大国主が長距離念話できないのは不思議ではないのだ。
武甕槌(ならば、時間がもったいない。今すぐに杵築大社に向かおう)
武甕槌はそう言うと、縁側からさっと空へと飛び立った。続いて追いかけるように俺も空へ飛び立つ。空にも神域の出入り口があるらしく、そのまま神域を出て杵築大社へと向かった。
それにしても、武甕槌の飛行速度はかなり速い。雨が前に武甕槌を脳筋とか言っていたけれど、元武闘派だったというのも頷ける。
まあ、天照やスサノオから比べれば全然遅いけど。というか、天照が本気を出したら俺の目から見ても瞬間移動だ。
とか考えている間に、あっという間に杵築大社に着いた。春日神社の時と同様に空に入り口があって、そこから神域に入る。この入り口って雨は知らなかったよな。あいつ飛ぶの本当に苦手だから無理もないか。
武甕槌(大国主)
大国主(武甕槌か)
武甕槌(体は起こさなくていい。久しぶりだな)
大国主(そうですね。急にこんなことになって、ご迷惑を掛けています)
武甕槌(それはいい。仕方のないことだ)
すせり姫に案内されて俺たちが部屋に入ると、大国主は横にしていた体を起こそうとして武甕槌に制止された。流石に病気のせいか豚も少し痩せた気がする。
水曜日は私用のためお休みします。次回更新は金曜日です。