弐百玖拾捌.パラドックス
大国主(とにかく、そういう状況なのでせっかく時間転移魔法を開発したものの、天照さまの結界については何も分からなかったのです)
俺(理由はともかく、結界が安全に消えるのならそのまま放置してもいいんじゃない?)
大国主(そうも行かないのです。こほっ。時間転移魔法で未来の情報を得た時点で、その未来は新しい未来に書き換わってしまいます。こほっ。書き換わった後の未来で結界が安全に消えるかどうかは、こほっ、厳密に言えば不確定です。ごほごほっ)
俺(大丈夫?)
大国主(大丈夫です。ごほ。ちょっと喉がいがらっぽくなっただけですから)
未来が書き換わるか。SFでよくあるタイムパラドックスってやつだな。
そう言えば、俺が時間転移したことで竹取物語が世界から失われたと前に言っていたけど、これも「今」の未来は竹取物語のない世界に書き換わったってことでいいのかな。
俺(分かった。だとすると、このことは実は関係があることなのかもな。大国主の代理をスサノオにお願いしにいったのだけど……)
大国主(その話はすせりから聞きました。スサノオのように、僕の代理の件と天照さまの結界の件を交換条件にするのやり方は賛成できませんが、天照さまの結界を解くのは賛成です)
俺(でも、結界を解いて同化も解くと、天照は死んじゃうんじゃ?)
大国主(本来の神様の方の天照さまは死にます。もともとほとんど死んでいるはずのところを、同化の呪術と結界の力で辛うじてこの世に繋ぎ止めているだけですから)
俺(人間だった方は?)
大国主(天照さまの神力と親和性のある誰かに憑依させることでこの世に止めることが可能です。憑依した人間が死ぬと、天照さまも死ぬことになりますが)
俺(親和性があるってことは加護を持ってればいいってこと?)
大国主(そうです)
俺(俺の時みたいに代わりの体を作ることはできないの?)
大国主(天照さまは神力が強すぎるので、元の体がある程度残っていれば新しく拒否反応を起こさない体を作ることも可能なのですが、それがないと憑依に失敗して強すぎる神力で体が爆散する可能性を否定できません)
失敗すると爆散とか何そのダンディーな仕様!
俺(天照の加護を持っている人間が必要か)
大国主(はい)
俺(憑依ってことは、取り憑かれる側の人格はどうなる?)
大国主(変わりません。1つの肉体に2人の人格が宿る形になります。元の人格が主人格になるので、体の制御は元の人格が優先です)
俺(なるほど)
となれば、天照は俺が引き受けるか。他に適任もいないしな。
しかし、そうなると今度は天照と月☆読を説得しないとな。
結局、天照が割りを食うことになるのは仕方ないけれど、俺と共存することになってもなるべく自由にさせてやらないとな。
あ、そう言えば、俺は元の時代に戻れるのか?
俺(俺が元の時代に戻る話は?)
大国主(結界を解いて得られる神力を使えば、時間転移魔法の発動は問題ないですよ。ごほごほ)
俺(ああ、無理させて悪かったね。参考になったよ)
大国主(いえいえ)
俺(ゆっくり休んで。お休み)
大国主(おやすみなさい。……しまった。今期の録画予約のセットがまだとちゅ……ぷちっ)
あ、い、つ、はー!
俺『聞いてがっかりする話は念話を切ってから話せーーっ!!』
おっと、つい堪えられなくてうっかり大声で叫んでしまった。
というか、あいつは本当に病気を治す気があるのか? それともそういう心の病気なのかっ?
雪「あの、どうなさいましたか、かぐや姫さま」
俺「いいえ。なんでもないわ。大丈夫。ほほほ」
と、ここでまたいつものお休みです。来週からは国王様の方をどうぞよろしくお願いします。