表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/362

弐百玖拾参.家出

 天照本人の意向が分からない中、事情を知る天界の神々のほとんどは月☆読を支持した。まだ世界の秩序が確立していない内に太陽神を失うことは神々にとっても不安なことだったのだ。


 だから、神でさえも耐えられないほどの神力に人間の精神が耐えられるかどうかなどということについて、スサノオ以外の誰も考えようとはしなかった。


 神々はスサノオを捕らえ、幽閉し、さらにニニギの呪術を陰で助け、同化の呪術を成功させた。


 そして、スサノオの心配は的中し、天照は暴走した。


 高天原を破壊し始めた天照に対し、幽閉先を自力で脱出したスサノオは同化の呪術を解こうと対抗魔法を構築しようとした。そこへ、天照を失うことを恐れた月☆読を中心とする神々がスサノオを一斉に攻撃したのだ。


 スサノオの行動は高天原への反逆と見なされ、極悪人とされて高天原を追放されることになった。いくらスサノオが強くとも多勢に無勢で強制的に葦原中国へと落とされたのだった。


 天照の暴走によって高天原が破壊され続けているにも関わらず。


 その後、天照は神力の安定化のために結界内に幽閉されることとなり、スサノオは葦原中国を放浪した後に根の国に下りてそこの王となったのだ。


 武甕槌(スサノオ様の言っている因縁というのは、この一件のことに違いないだろう)

 俺「ということは、この因縁を解決するってことは」

 武甕槌(天照様の幽閉を解いて、掛けられた同化の呪術を解くということだろう)

 俺「同化を解くと人間だった方の天照はまた人間に戻るの?」

 武甕槌(いや、同化の呪術が行われた当時の人間の体はもう失われている。同化を解いても戻る体がない)

 俺「じゃ、天照は死んじゃうんじゃ?」

 武甕槌(……あるいは、それが一番いいのかもしれないな)

 俺「いいわけないよっ」


 話がややこしくなりすぎて、何が正しいのかよく分からなくなって来てるけど、それだけは分かる。一番割を食ってるのは天照じゃないかっ。


 俺「他の何を犠牲にしても、天照を犠牲にしてみんな助かるなんてのはハッピーエンドでもなんでもないよ」

 武甕槌(天照様が亡くなるような結論は月詠様もスサノオ様も望んではおれらないだろう。私としてもこれについては結論を急ぐべきではないと思う。

  大国主様の代わりについてスサノオ様が当てにできないと言うことならば、もう一度こちらで他に当たってみよう)


 そう言い残して武甕槌は杵築大社を後にした。


 俺「雨、あなたやりなさい」

 雨(やだ)

 俺「雨!?」

 雨(いやっ。どうせ僕がやったってみんなバカにして僕の言うことなんて聞かないんだから、やる意味なんてないんだよっ)

 俺「ちゃんと仕事をしたらバカになんてしないわよ」

 雨(いいや、するね。偉いくせに何にもできない神様って陰口を叩くんだよ。隠れて言ってたって僕には全部分かるんだからっ)


 雨はそう言って耳を塞いで嫌々をする。


 天照『天児屋は考え過ぎなんだよ』

 俺「天照!」

 天照『しーっ! 見つかっちゃう』

 武甕槌(天照様ーっ!)

 天照『やば、もう来た』


 いつもの如く突然天照が現れたと思ったら、帰ったはずの武甕槌もまた戻って来た。


 天照の服は闇に紛れるつもりか真っ黒な服を着ているのだが、自身の神力で全体として発光しているので、あまり紛れられていない。


 武甕槌(天照様、地上に下りるのは自重して下さいと言ったばかりではありませんか)

 天照『ふーん。ばーか、ばーか。お尻、ぺんぺーん』

 武甕槌(天照様っ!)


 天照はさっと身を翻して自分のお尻を叩くと人智を超越した速度で飛び去っていった。武甕槌も慌てて追いかけるが到底追いつけない。


 ってか、子どもの喧嘩か。


 武甕槌も忙しいだろうに、天照の子守までしてちゃ大変だろうな。今日は徹夜かねー。


 俺「まあ、いいわ。雨、そろそろ帰りましょ。雨。……雨?」


 夜遅くなってしまったけど、ようやく全ての片がついて雪の下へ帰ろうとしたところで、雨がいなくなっていることに気づいた。さっきまでいたと思ったのに。


 きょろきょろと辺りを見回してみると、床に手紙が落ちているのに気がついた。


 そこには一言、「さがさないでください」とだけ書いてあったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この小説は、一定の条件の下、改変、再配布自由です。詳しくはこちらをお読みください。

作者のサイトをチェック
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ