弐百捌拾弐.過労
雨(あ、念話だ。……、はい、もしもし。げっ)
と、突然、近くにいた雨が念話で誰かと話し始めた。何か引きつった顔をしているので、あまり話したくない相手なのかな。
雨(えっ、大国主が? ……、えー。……、うぅ、分かった。なるべく……)
念話の相手の声は聞こえない。遠距離通話用の対象限定念話で話しているせいだ。
雨(……、ちょ、待って。無理。あっ)
何か慌てている。どうも話している最中に念話を切られたみたいだ。
俺「どうしたの?」
雨(大国主が急病で倒れたみたい)
俺「大国主まで!?」
なんてこったい。2人同時なんて、もしかして右大臣は大国主の加護を受けてたけど、それが関係してるのか?
雨(で、これから大国主の後任のことを話すから、今すぐ杵築大社に来いって)
俺「大国主は大丈夫なの?」
雨(過労が原因らしいから安静にしてれば回復するみたいなんだけど)
俺「なんだ。そんなら大したことじゃないじゃない」
雨(うん。たった数百年くらい寝てればいいだけみたいだから)
俺「それは随分大したことね」
神さまの世界は数の桁がちょっと違っててびっくりするよ。
俺「とにかく、今から杵築大社に行くのね」
雨(日が暮れるまでに着かなかったら、武甕槌が根の国に閉じ込めるって言うんだよ。ひどいと思わない!?)
俺「今から行って日暮れまでに着かないわけがないじゃない」
雨(僕はゆっくり飛ぶのが好きなんだよっ)
俺「それは閉じ込められても仕方ないわ」
雨(それに、元々飛ぶのだって遅いし……)
俺「仕方ない。今日だけ特別だからね。私が連れてってあげる」
今日は満月だから日暮れまでにって言ってるってことは月☆読も来てるんだよね。この間のこともあるし、これはちゃんと行って話を聞いておかないとね。
雨(ご、ご主人さまのおっぱいに挟まれて空を!? ぜひ、よろしくお願いします)
俺「誰がおっぱいに挟むなんて話をしたのよ。手を引っ張ってあげるだけよ」
雨(えー。あっ、でも、ご主人さまと手を恋人つなぎにして空中デートってのもありかも!!)
というわけで、俺と雨は後のことを雪と空に任せて杵築大社に行くことになった。
俺「じゃ、雪、空、後のことはよろしくね」
雪「かしこまりました」
空「いってらっしゃいませ」
墨「にゃー」
式神「後のことは任せて、姫ちゃん!」
俺「あなたが一番信用ならないのよ」
俺は胸をどんと叩いて自信満々な式神にジト目を送る。
俺「空、式神の扱い方は雪がよく知ってるから、よく聞いて理解しておいてね」
空「ま、まあ、ご主人さまがどうしてもとおっしゃるなら、勉強しておかないこともありませんわ」
そして、空は相変わらずのツンデレが素晴らしい。




