弐百漆拾陸.世界級魔法
天照『姫ちゃんは悪くないわ』
武甕槌(そうです。元はといえば天照さまがかぐや姫をこの時代に連れてきたのが悪いんですよ)
俺「確かに」
天照『姫ちゃん、何でそこで相槌を打つのっ!』
おっと、しまった。うっかり本音が漏れてしまった。
俺「じゃあ、どうすればいいのかしら。ここから外に出ないようにしばらく引きこもってればいいの?」
武甕槌(そのくらいでは不十分だ。どこかの神域に隔離して、神も人も接触禁止にするべきだ)
え? それは流石にひどくないか? 牢屋じゃないんだから。
天照『そんなのあたしが許さないよっ』
武甕槌(天照さま)
天照『何も悪くない姫ちゃんを閉じ込めるなんて信じられない。金輪際、姫ちゃんの行動を束縛することは「天照大御神の名において」禁止するわ』
天照が「天照大御神の名において」と言ったところに魔力の高まりを感じた。多分、宣言したことを強制させる類の魔法なんだろう。もしかすると天照のことだからここにいる人だけでなく全世界的に強制する魔法かもしれない。
月☆読(お姉さま!)
武甕槌(なんということを!)
天照『これでもうあたしを倒さない限り、姫ちゃんは世界中のどこに行っても誰の束縛も受けないからね』
やっぱり世界的な方っぽい。
武甕槌(撤回してください)
天照『嫌よ』
武甕槌(人間界がどうなってもいいんですか)
天照『嫌って言ったら嫌なの』
武甕槌(天照さま!)
天照『そうやってちょっと都合が悪くなったらすぐによってたかって人のことを閉じ込めて。少しは閉じ込められる側のことも考えてみてよっ』
そういえば、天照は人から神になった時に暴走して封印されて、それ以来本体は高天原の結界に閉じ込められたままなんだった。
武甕槌(世界の秩序のためです)
天照『秩序が何? そんな秩序なら、ない方がマシよ』
月☆読(武甕槌! お姉さまも堪えてください)
天照が物騒なことを言い出したところで月☆読が仲裁に入った。
ちなみに雨は天照と武甕槌の喧嘩が怖いのか向こうを向いて耳を抑えて床に臥せっている。頭を下げてお尻を高く上げている様子が扇情的……、いや、あいつは女装してるけど男だったっけ。
天照『もういい。今日は帰る。武甕槌なんか大嫌いだっ!』
月☆読(あっ、お姉さま、待って下さい)
捨て台詞を残して飛び出した天照を追おうと立ち上がった月☆読を、武甕槌が袖を掴んで引き止めた。
武甕槌(月詠さま、お待ち下さい)
おお、月☆読が「月詠さま」とか呼ばれてる。違和感ありすぎ。
月☆読(これ以上なんだというのですか、武甕槌)
武甕槌(まだお話があります)
月☆読(私にはこれからお姉さまをお慰めするという大切な使命があるのです。それを押してまで話すことというのはよほどのことなんでしょうね)
月☆読に慰められて天照の気持ちが落ち着くような気があんまりしないんだが。あ、サンドバックになればいいのか!