弐百漆拾伍.エリート降臨
雨(ううー。僕がご主人さまと戦って勝てるわけがないじゃないかっ)
俺「だったら仕事してください」
雨(だが断るっ)
ダメだこいつは。
?(ならば、私が今からこいつを連れて帰ろう)
雨(ひっ)
突然、渋いいい声(といっても念話だけど)で話しかけられて、驚いて振り向くとそこには久しぶりに見た顔があった。
俺「武甕槌!」
武甕槌(久しぶりだな)
天照『やっほー、姫ちゃん』
月☆読(……)
ついでに天照と月☆読もいた。相変わらず月☆読は俺に対しては無愛想だ。
俺「武甕槌がこんな所に来るなんて珍しいですわね」
というか、こいつは超超超多忙で春日神社の外に出る余裕なんて全然なかったんじゃなかったっけ? いつぞやのお付きの神さまをぞろぞろと連れて歩いていた様子を思い出す。
武甕槌(状況が状況だからな。直接来る方が話が早い)
天照『大したことじゃないのに武甕槌は騒ぎすぎなんだよ』
武甕槌(天照さまは無責任すぎます)
俺「あの、何がどうしたんですか?」
どうも武甕槌が怒っていて、それの原因が天照にありそうだということは分かるけど。後、月☆読は自分の方に火の粉が降り掛かって来て欲しくなさそうに息を潜めている。
武甕槌(原因の一端はあなたにもあるのだ、かぐや姫)
俺「私?」
天照『姫ちゃんは関係ないよ!』
俺「あの、一体何の話ですか?」
武甕槌(このところ、人間界で天照さまの加護が強くなりすぎて人間界の秩序に混乱が生まれているのだ)
俺「あー」
なるほど、心当たりがありすぎる。
爺や俺の縁者の急激な出世もそうだし、大納言の失脚も中宮の子どもに天照の加護を与えたことが影響を与えた可能性は高い。というか、何より俺の存在が帝や公卿を振り回しているのが最大の混乱じゃないのか?
天照『別に神の世界の力関係の変化が人間界に影響するなんて珍しいことじゃないでしょ』
武甕槌(一般論ではそうです。ですが、今の変化は急すぎな上に、天照さまの力が強くなりすぎです)
天照『あたしの力が強いのは前からだわ』
俺「もしかして、私が天照の力を人間界に撒き散らしてるから?」
武甕槌(その通りだ)
うー。そう言われると、確かに最近、交友関係を広げすぎなのかも知れない。もともとはひっそりと引きこもって暮らしているつもりだったのに、最近は中宮のこととか明子のこととか積極的に首を突っ込んでるもんな。