弐百漆拾肆.レヴィアたん
雨がニートに逆戻りしつつある。
これまでは俺以外に魔法が得意なのは雨だけだったので、操縦が面倒くさいながらもあれこれと言いくるめて魔法の助手をやらせてたのだが、空が加わってからは空に頼めば終わるので雨の出番がない。
具体的にはお風呂の準備とかトイレットペーパー作りとかお菓子の試作とか魔法じゃんけんとかネタ小道具作りとか。いろいろ。
雨に助手をやらせると、ちゃんと監視してないとすぐにいたずらを始めたり、ちょっと面倒くさいことをさせようとするとすぐにご褒美を要求したりとうざいことこの上ない。
その点、空は頼みごとを素直に聞いてくれて、お礼を言うと「べ、別にこれはご主人さまのためとかじゃなくて、私もちょっと興味があっただけなんですから、勘違いしないでください」などと言ってかわいい。
つい空に頼み事が多くなってしまうのは仕方のないことじゃないか!
俺「雨、あなた、春日神社に帰ってもいいわよ」
雨(なんでっ!!)
俺「だって働かないし」
雨(働いてるよー。今日だってちゃんと働いた)
俺「何をかしら?」
雨(ご飯を食べた後、自分のお皿を重ねて雪ちゃんに渡した)
俺「それは働いたんじゃなくて動いただけよっ」
頭が痛くなってきた。
雨(僕が偉い神さまだった時には、お皿は全部お付きの神さまが下げてくれたんだよ)
俺「あなたは今は私の使い魔よ」
というか、偉い神さまというのが過去形で語られているのはそれでいいのか、雨よ。
雨(僕はご主人さまの使い魔の中では一番格上なんだよ)
俺「雪は私の使い魔じゃないわ。それにこの際はっきりさせておくけど、この家の中での順位は、雪、墨、空、雨、烏の順よ。あなたの下は烏だけ」
雨(そんな、横暴だっ)
俺「横暴なのはあなたのほうでしょうが……」
三羽烏だって仕事をしてる。仕事をしてないのは雨だけなんだ。烏の上に置いてるだけでもありがたいと思ってほしいよ。
雨(ひどい。結局、ご主人さまは僕を弄んだだけなんだ)
俺「そうよ」
雨(僕は本気だったのに!)
俺「本気なら働いて」
雨(働きたくないでござる)
結局、それが本音か!
俺「いいこと? この家にいる限りはこれから働かざる者食うべからずよ。つまり、ご飯はなしよ」
雨(僕に死ねと言うの!?)
俺「働いてって言ってるのよ!」
雨(働いたら負けなんだよ)
俺「あなたは何と戦ってるのかしら?」
頭が痛すぎて肩まで凝ってきた。雪、ヘルプ・ミー。
雨(世間とか常識とかって名前の怪物だよ。リヴァイアサンだよっ)
リヴァイアサンなんてどこで覚えたのやら。旧約聖書やトマス・ホッブズのわけはないから、大国主経由のアニメか漫画か何かだと思うんだけど。
ところで、リヴァイアサンって別名レヴィアタンって言うんだけど、「レヴィアたん」みたいで可愛い……って既出ですか?
俺「そんな大層なものと戦う前に、まずご主人さまと戦うのはどうかしら!?」
「レヴィアたんでーす」
「おす。ベヒモっす」