弐百漆拾弐.ブレックファスト・イン・ベッド
俺は、ごめんなさい、ごめんなさい、とうわ言のように言っている寛子の近くにまで来た。
俺「雪、刀を」
雪「はい」
雪から太刀を受け取った俺は、力が入らず震える指先に刀を押し当てて指先を少し切った。そして、脱力する寛子の顎を持って顔を上げさせ、指先に溜まった血を寛子の頬へと1滴垂らした。
俺「汝を我が下僕とする」
そして、ゆっくりと顔を寛子の顔へと近づけ、寛子の唇に軽くキスをした。
これで使い魔の魔法は完成だ。あ、ちなみに最後のキスはなんとなくで、本当は寛子の唇を俺の身体のどこかに触れさせればいいだけだったんだけどね。多分、疲れ果ててちょっと自制心が利かなくなってたんだと思う。
俺「雪、私はこのままもう寝るわ。後のことはお願い。寛子はこのまま寝かせておいてあげて」
雪「かしこまりました」
それだけ伝えると、俺はのろのろと自分の部屋へと移動して、そのまま畳の上に倒れ込むようにして深い眠りについた。
雪「かぐや姫さま、おはようございます」
目が覚めると、すでに周囲は明るくなっていた。お腹空いた。
身体を起こしてみるともう疲れは取れているがお腹が空いていて少しふらふらする。
?「お、おはようございます、ご主人さま」
俺「ん?」
聞き慣れない声のする方に顔を向けると、雪の隣にしっかりと女房装束をまとった寛子がいた。
俺「おはよう、寛子さん、じゃなくて、寛子。もう大丈夫なの?」
寛子「は、はい。おかげさまで、このようにすっかり元気(ぐ~~~)に……」
俺「……」
寛子「あ、あの、昨日は大変無礼な態度をお取り申し上げてしまいまして、何卒お許しを(ぐ~~~~~)いただき……」
さっきから話す度に寛子のお腹がぐーぐーとなるのが面白い。俺と一緒でこの2日間何も食べていないのだから仕方がない。
俺「とりあえず、ご飯にしましょうか。雪、お願いできる? 寛子は今日1日はまだお客様扱いでいいや」
雪「かしこまりました」
寛子「わ、私もお手伝いいたします」
俺「いいから、いいから。寛子はまだゆっくりしてて」
それにしても、使い魔の契約をした直後はみんなこんな感じで素直で従順になるんだよな。なんか初々しい。すぐに元の雰囲気に戻っちゃうんだけどね。
ちなみに俺の朝ごはんは、大体着替えないで寝てた時のままで食べることが多い。いわゆるブレックファスト・イン・ベッドなのだ。
後、朝ごはんに限らず、ご飯は大体みんなで集まって食べる。今も俺と雪と墨と雨と寛子の5人分のお膳がテキパキと運び込まれてきた。
寛子「あ、あの、これは?」
俺「ご飯はみんなで食べるんだよ」
寛子「ええっ」
これまでの生活と全く違う風習に驚く寛子。
ふっふっふー。こんなぐらいのことで驚いてたら身が持たないんだよ。ご飯の後は2日間お風呂に入ってなかったから、みんなでお風呂に入ろうかなっ。