弐百漆拾壱.張り扇
第1戦。俺の勝利。
寛子「ふふん。まあまあですわね。でも、次は負けませんわ」
第7戦。俺の勝利。
寛子「おかしい。どうして勝てませんの? そろそろ勝ってもおかしくない頃合いですのに」
第13戦。俺の勝利。
寛子「こんなはずありませんわ。もう一度っ、もう一度やりますわよっ」
第21戦。俺の勝利。
寛子「まだまだ。まだまだです」
第53戦。俺の勝利。
寛子「なんで? なんでですの?」
第86戦。俺の勝利。
寛子「ひっく、ひっく。な゛んでがでな゛いのよ」
第108戦。俺の勝利
寛子「……お願い……これ以上いじめないで……」
俺の思考時間はほとんどノータイムで、食事も睡眠も取っていないとは言え、これだけのゲーム数をこなすには一昼夜はかかる。
2日目の日も落ちてきた頃にはゲーム数は100を越えて、一方的に負け続けて泣きながらサイコロを振っていた寛子の涙も枯れ言葉もほとんど発しなくなっていた。しかし、それでも双六盤の魔力にとりつかれた寛子はサイコロを振ることをやめることはない。
そういう俺の方も双六盤の魔力にとりつかれているのは同様で、全く自分のステータスを抑制することもなく、ただ一心に貪欲に目の前の獲物を狩ることだけに集中していて、時間の経つのもすっかり忘れていた。その獲物がどれほど弱々しい子鹿だったとしても……
と、突然、頭の後ろに衝撃が走った。
俺「はっ、わ、私……」
その衝撃で突然我に返った俺は、すぐ脇にハリセンを持った雪が顔を真っ赤に紅潮させて立っているのに気づいた。
俺「雪」
雪「かぐや姫さま、申し訳ありません。結局、これを使うことになってしまいました」
俺「ううん。ありがと。それ、役に立ったのね」
辺りを見回すと、墨も雨も顔を赤くして息を荒くして床に倒れていた。どうやらステータスのリミッターが外れた俺の魅力に当てられたようだ。
雪が持っているハリセンは、見た目はただのハリセンだが神紙を折って作った特別製で、双六盤に心を奪われて戻ってこれなくなったときにはこのハリセンで叩くくらいのことをしないと覚醒できないだろうと雪に予め預けておいたものだ。
俺「あれからどのくらい経ったのかしら」
雪「丸1日経ちました」
俺「そんなに経ったのね」
通りで身体に力が入らないわけだ。ゲームに集中し続けていたせいで、普通に徹夜した時の何十倍も疲れた気がする。しかし、ここまで来ればあと一息だ。
ハリセンといえば多くの人には紙を折って作ったあれですが、伝統的には能楽や講談で使う扇子の形をした打楽器のことを指したりします。