弐百陸拾捌.めろめろ
俺『問題は、使い魔にする魔法を使うには、寛子に俺が主人だと理解させるために一度徹底的に反抗する気力を奪わないといけないんだけど、それをどうやってやればいいか』
雪「たしか雨さまの場合は……」
とそこまで言ったところで、雪の顔が真っ赤になった。雨が初めておしおきされた時のことを思い出したんだな。
雪「かぐや姫さま、あれを寛子さまにするんですか?」
俺「うーん、あれはさすがによくないと思うわ」
あれは変態の雨だからOKだったわけで、普通の人間で、しかも中宮や明子とも友達の寛子にはちょっと気がひける。
雪「墨ちゃんの時は何をしたんですか?」
俺「あの時はまだ猫だった墨の目の前に雷を落としただけよ」
墨「ご主人さま、怖かった」
墨があの時のことを思い出してガクブルしはじめたので、抱きしめて慰めてあげようと思ったら、ひと足早く雪の方に逃げられてしまった。
雪「それもあまりよくなさそうですね」
俺「そ、そうだわね」
雨のおしおきよりはマシだけど知り合いの鼻先に雷を落とすのってやっぱりやりすぎだよね。
雪「かぐや姫さまが寛子さまと何かで勝負して、かぐや姫さまが勝つというのじゃダメなんですか?」
俺「負けると反抗する気力もなくすような勝負って難しいわよね」
雪「そうですね」
うーん。やっぱり寛子を使い魔にするのは難しいか。でも、それだとこの離れの中を自由に歩かせるのはまずいし、爺と婆の方の担当になってもらおうかなぁ。
雪「あの、かぐや姫さま、どうして反抗する気力をなくす必要があるんですか?」
俺「ん? それは使い魔になると主人に敵対できなくするような心理的な制約がかかるんだけど、それを掛けるときに少しでも心の中で抵抗すると使い魔の魔法が失敗するからよ」
雪「じゃあ、かぐや姫さまが私に使い魔の魔法を掛けたらきっと成功するんですね」
俺「どうして?」
雪「だって、私がかぐや姫さまの魔法に抵抗するなんてありえませんから」
雪はいい娘だなー。こんな娘ならそもそも使い魔の魔法なんていらないよねー。
雪「だから、寛子さまもかぐや姫さまのことが好きになればいいんですよ」
俺「いいね。で、どうやるの?」
雪「……、どうしましょう」
俺「おっとっと」
雪「かぐや姫さまの側にいたら自然に好きになると思うんですけど」
確かに魅力値が高いから公卿や明子の時みたいに近くにいれば自然に好きにはなると思うけど、だからって抵抗がなくなるかっていうとそんなことはないからな。公卿たちがずるをしようとしたみたいに。
雨(はい、はーい)
俺「何かしら、雨?」
雨(ご主人さまのテクで寝技に持ち込んで、めろめろに……)
俺「根の国に行きたいのかしら?」
雨(ガクガクブルブル)
ふー。なかなかいいアイデアは出てこないな。
俺「じゃあ、これは宿題ということにして、明日までに1人1つ以上アイデアを考えてくること。いい?」
雪「はい」
雨(はーい)
墨「うん」
まあ、だめならいいアイデアが出るまでしばらくの間は本殿の方で爺たちの担当をしてもらおうか。
ところで「めろめろ」という言葉は鎌倉時代から使われていた言葉なのだそうです。使われ方は今とは違ったそうですが。