弐百陸拾伍.乗法可換則
雪「それから、これはもしかしたらなのですが、明子さまは竹仁さまより以前からもっと苦しい恋をなさっているのでは……」
俺「え!?」
はっと明子の方を見ると、明子は顔を青くして苦しそうに息をしていた。
俺「いけない。雪!」
雪「はいっ」
俺と雪は慌てて明子を介助して横に寝かせた。見るのは初めてだけど、多分、過呼吸になったのだと思う。雪の言葉が意図せずに明子を追い詰めてしまったのかもしれない。
俺「落ち着いて、ゆっくり息をして」
明子「はっ、はっ、すー、はー」
過呼吸の処置はよく映画とかだと紙袋を口に当てたりしてるけど、あれはあんまりよくなくて、落ち着いてゆっくり深呼吸をするのがいいんだとまとめサイトに書いてあったのを読んだことがある。
どのくらい信憑性があるのか分からないけど、どっちにしろ適当な紙袋もないので明子に深呼吸を促したところ、徐々に回復してきた。
ただ、今日はこれ以上明子の話を聞くことは難しい。
しばらく安静にしたほうがいいということで明子には別室で寝てもらい、俺と雪は今日の明子のことを話し合うことにした。
俺「うー。明子ちゃんを助けてあげたいのは山々なんだけど、竹仁の正体が私だってバレたらびっくりしちゃうよー」
雪「明子さまは本当に好きな人が他にいるのかもしれません」
俺「そういえば、さっきもそんなことを言ってたけど、それどういうこと?」
雪「他に好きな人がいて、でもそれは叶わない恋で、それを忘れたいという無意識の思いが竹仁さまへの執着を生み出している可能性があるんじゃないかと」
俺「叶わない恋……?」
叶わない恋っていうと、例えば、お兄ちゃんだけどなんとかかんとか、とかそういう奴? 明子のお兄さんって……?
俺「関白か……」
げろげろ。よりによって関白とかマジありえない。キモいし。臭いし。
雪「関白さまじゃないんじゃないかと思います」
俺「どうして?」
雪「なんとなく勘なんですが、明子さまが関白さまの話をするときに変な感じがしたことはありませんでしたから」
俺「なるほどねー」
女の感かー。
雪「むしろそれを言うなら中宮さまのほうが……」
俺「!! その話、もうちょっと詳しく」
明子×中宮なの? それとも、中宮×明子なの? 中宮の方はどう思ってるの? もしかして両思い?
雪「かぐや姫さまっ! ちょっと落ち着いてください」
俺「……ごめんなさい」
雪「明子さまの中宮さまに対する態度はちょっと変な感じがして、もしかしたら何か関係があるかもしれないんですが、明子さまと中宮さまが何かあるということはないと思います」
明子と中宮が両思いだったらいっそのこと2人共俺が攫って、俺と雪の仲間に入ってもらってみんなでウシシとかできたかもしれないのに。
俺「えー。惜しい」
雪「惜しくないです。でも、どうするんですか、明子さまのことは?」
俺「どうしようか? 関白に入内を思い留まってもらうのがいいんだろうけど、関白が言うことを聞くとは思えないし。それにそもそも明子さんが入内を拒む理由がいまいちはっきりしないのがね」
本当の理由を聞けたら手助けももっと楽なんだろうけど、明子自身がそのことを考えるだけで体調が悪くなってしまうようなら無理強いはできないな。
短いですが今回の更新はここまでです。続きはまた少し間が空きます。よろしくお願いします。