弐百陸拾壱.相対性理論
職人は事情を理解していないので、この場に漂う不穏な空気が何を意味しているのか分からず、ただ首をかしげるだけだった。
一方の関白はというと、何ヶ月にも及ぶ企みが崩壊した瞬間を目の当たりにして、ただ放心してしまっているようだった。
爺「関白さま、これはどういうことですかっ!」
関白「いや、これは……」
俺「関白さま、私はこの細工に大変感激しまして、さすが関白さまのお抱えの職人たちだと感心しております。そこで一つこの職人たちに作っていただきたいものがあるのですが、よろしいですか?」
関白「あ、あの、その……」
俺「もちろん、材料費と工賃の方は私の方から払わせて頂きます。いかがでしょう?」
関白「……好きにしてください」
俺「ありがとうございますっ」
俺はお礼に、極上の笑みを関白にプレゼントしてやった。精神的に弱っていた関白は一発でダウンして、そのまま朝まで眠り続けた後、目が覚めると逃げるように帰っていった。
ちなみに後から聞いた話によると、天照は墨があのまま帰ってこれなかったら太陽を沈めるつもりはなかったそうだ。万有引力とか相対性理論とかいろいろあるはずなんだけど、そんなことになったら一体物理法則はどうなっちゃったんだろうねっ。
関白の快諾を得てアクセサリーを作ってもらうことになった俺は、月と竹をモチーフにしたマークを考えて、それを使ったアクセサリーを作ってもらうことにした。
アクセサリーは俺、雪、墨、天照、雨、式神、三羽烏、爺、婆、中宮、明子、寛子、大国主、すせり姫、イッチー、タゴリン、タギちゃん、月☆読、スサノオ、武甕槌の分を用意することにした。つまり、日頃お世話になっている人にお返しを、というわけだ。
一つ一つは大きなものではないが、量が多いので一度には作れないので、出来上がり次第順番に渡していくことになる。でも、一番最初のは雪にあげるんだ。
とにかく、これで5人の公卿と帝からの求婚を退けて、晴れて俺は自由になったのだ。俺が現代へ帰れるのは後99年も先のことだから、それまでは好き勝手にやらせてもらおう。
といっても、別に何か特別なことをするわけじゃなく、日がな雪とのんびり過ごして、時々友達を訪問したり旅行に行ったりするだけなんだけどね。
そういえば、友達といえば、中宮の体調はまだよくならないのだ。後、結局、明子の件は関白が帰ってくるまでに解決できなかった。
ただ、明子の方は、関白が蓬莱の玉の枝の件でショックを受けて、京に帰ったにもかかわらず公務復帰までにしばらく時間がかかることになり、入内の件も一時棚上げになってしまったようだ。
明子がどうしているのか気にかかるものの、中宮が体調不良のせいで会う機会がない。直接会いに行くには関白の件があって気まずいんだよな。
そんなことで特に大きな事件もなく日々は過ぎ、皐月中旬となったある日のこと、久しぶりに中宮からの手紙が届いた。
雪「かぐや姫さま、中宮さまがご懐妊なさいました」
第4章「雲上」完
1年以上掛かった第4章でしたが、ようやく完結しました。お話の世界でも長月から皐月まで足掛け9ヶ月もの時間が過ぎたわけで、長いはずです。
次章はいよいよかぐや姫が現代に帰ることになります。しかし、その前にまた一騒動も二騒動も起きる予定でいます。
またプロットから書き起こしていくことになりますので、再開までいつもよりお時間を頂きます。後1章になりますが、今後ともよろしくお願いします。