弐百陸拾.タイムリミット
そうこうしているうちにも日の光は少しずつ赤くなって、影はどんどん長くなっていく。心配そうな雪の顔、自信を深める関白の顔、上機嫌な爺と婆。
雨、早くしてくれっ。
雨(ご、ご主人さま)
俺(雨、どうした!?)
雨(僕、やっぱり、ダメだったみたい……)
俺(え? ちょっと、雨?)
墨(姫さま、雨さまの顔色がどんどん青くなって来てます)
俺(おい、雨、ぱふぱふはどうするんだっ)
雨(ご主人さま、最後にご主人さまのおっぱい、見たかった……)
俺(雨ーーーーーっ!)
墨(つ、墜落しますっ!!!)
終わった……
こうなったら関白を暗殺する案を実行するしかない。無益な殺生は好まないが、この際、やむを得まい!
墨(ご主人さま)
俺(……どうした、墨)
墨(今、そちらに着きます)
俺(! 雨が頑張ったのか!?)
墨(いえ、市杵島姫さまたちが助けてくれました)
イッチーが?
俺は思わず立ち上がり、縁側まで進み出た。空には龍が3頭こちらを目指して飛んでいた。その頭には墨、雨、そして見知らぬ男の姿が。
龍は音もなく屋敷の庭に着陸すると3人の乗客を下ろし、俺の姿を見て頭を下げてすぐに再び飛び去っていった。
時は日没寸前。俺は関白の方を振り返りにっこりと微笑んだ。
俺「関白さま」
関白「な、何でしょう」
俺「こちらの蓬莱の玉の枝、非常によくこしらえてあり、大変感動致しました」
関白「何のことですかな?」
関白はしれっととぼけてきたがそんなことは想定の範囲内だ。
俺「そちらの方がこの蓬莱の玉の枝を作ったと聞き及んでいます。大変素晴らしい、日本一の出来だと思います」
職人「お褒めに預かりまして、光栄にございます」
勝った!
職人の言葉に、関白も雪も爺も婆も、そこに居並ぶものは一斉に息を呑んだ。蓬莱の玉の枝が偽物だという証言が出てしまったからだ。
爺「この品は本当にあなたが作ったものなのですか?」
職人「はい。もちろん、私1人ではなく、何人かで分担して作ったものですが」
爺「おお、ということは、この枝は偽物!」
職人「は?」