弐百伍拾肆.蓬莱の玉の枝
関白「私はこの蓬莱の玉の枝を手に入れるため、はるばる唐へとわたり、海の底にある蓬莱山を探し求めました。そして、5ヶ月もの間探し続け、ついに見つけたのです」
あ、蓬莱山って海の底にあるんだ。へー。マジで知らなかった。どっかの山奥にあるんだと思ってた……
関白「蓬莱山に近づく船はみな海の底に沈んでしまうといい、誰も船を出そうとはしませんでしたので、仕方なく小舟を借り、数人で近づいたのです。嵐に翻弄されつつも必死で小舟にしがみつき、とうとう辿り着いたそこは正に桃源郷でした」
おいおい、海の底へどうやって小舟で辿り着くんだっての。
関白「蓬莱に滞在するということは永遠の命が約束されるということですが、私には永遠の命よりもかぐや姫さまへの愛のほうが価値の高いものでした。そこで、近くにあった木の枝を手に取り、再び小舟に乗って嵐の中に漕ぎ出して、生死の境をさまよいながらもこうして帰ってきたのです」
そこで関白は一呼吸置いた。ふと気づくと、部屋にいる俺以外の皆が関白の話に聞き惚れている。って、こんな作り話信じちゃダメだよ!
関白「いたづらに 身はなしつとも 玉の枝を 手折らでただに 帰らざらまし」
と、ここで狙いすました関白の1首。例え死ぬようなことになったとしても、玉の枝を持たずに帰るようなことはしたくありません、と。
おい、みんな、騙されるなっ。婆、泣くなっ!!
さらにダメ押しに関白は絵師に描かせたという蓬莱山の様子を持ち出して、いかに蓬莱山が素晴らしいところだったかを説明し始めた。
爺「かぐや、お前が何と言おうとも、今度こそは本物に違いないよ。もう諦めて関白殿と夫婦になりなさい」
俺「お爺さま、少々お気が早いのではないでしょうか。私はまだ肝心の玉の枝をしっかりとは拝見しておりませんわ」
そう。ここで玉の枝が本物かどうかの鑑定をして、偽物だと証明できればこの勝負は俺の勝ち。ゲームクリアだ。
さて、……
…………、玉の枝ってどうやって鑑定するんだっけ?
………………、やばい、玉の枝の鑑定ができない。
……………………、俺、結婚するの!?
まてまて、もう一度確認しよう。まず脳内データベースにログインだ。
蓬莱の玉の枝 : 海の底にある蓬莱山(別名、竜宮)に生える玉の木の枝。玉の木は七宝を成し枯れることのない魔法の宝木。その枝はこの世で最も価値の高い宝物。
海の底ってちゃんと書いてあったし。
って、これって、魔法なのは玉の木の方で、枝はただの宝物ってことじゃないか? 魔道具じゃなかったのか!? それじゃ証明のしようが……
関白「どうなさいましたか、かぐや姫さま」
俺「な、なんでもないですわ」
やばい。やばいよ。どうする? どうしよう。このままじゃ、まずいよ。
くぅっ。こんなときこそ、天照のやつが天誅とかやってくれればいいのに、なんで今日に限って何もないんだよ。こないだ中納言の時に怒ったから遠慮してるのか?