弐百伍拾参.巌流島
あいつが帰ってきた。
7ヶ月と少し前、京を離れて旅に出たあいつが、
伝説の宝物を探し当て、
今、京に……
俺「帰ってきたの?」
雪「はい。さきほど連絡が入りました」
俺「うへぇぇ。そのまま海の藻屑でよかったんだわ」
雪「かぐや姫さま!」
おっと、失言。人に聞かれて面倒になりそうなことは、現代語で話すように普段から注意しておかないとね。テヘッ。
俺「で、今、こっちに向かってるの?」
雪「そのようです」
あいつとは、もちろん関白のことだ。俺からの課題を聞いた後、すぐに京を離れる許可を取って姿をくらました関白。一説には唐に渡ったとの噂もあったが、はたして。
俺「でも、これが終われば晴れて私は自由」
これまでに公卿4人と帝を撃退して、これで俺に求婚する実力者は残りたった1人。関白を倒せば全て終わる。いわばラスボス。魔王。
俺「魔王が私のものとなれといって、私が断るんだわ」
雪「魔王って何ですか?」
俺「ああ、それだと最終的に私は魔王のものに!」
関白は昼を過ぎてから俺の屋敷に訪れた。俺はかねてから検討していた巌流島作戦を決行することにした。
雪「かぐや姫さま、起きてください」
俺「むにゃむにゃ。もう少しだけ、お昼寝……」
雪「ダメです。もう関白さまがいらっしゃっているんですよ」
俺「雪が代わりに」
雪「無理です」
巌流島の決闘では、宮本武蔵は佐々木小次郎との決闘に数時間遅刻して心理的動揺を誘い勝利したという。ならば俺も先人の知恵に習うのがよいのではないか。
雪「いい加減にしてください!」
結局、雪のちょっと○○○な生モーニングコール(昼寝だけど)を耳元でしてもらい、満足して起きた俺は機嫌よく関白と対面することになった。
雪はさっきから顔を赤くして拗ねたようにしているのだが、それもまた可愛くていい。正直、関白にはいち早くお帰りいただきたい。そして雪に続きをしてもらおう。
俺「それで、お願いいたしましたものはお持ちになられましたのでしょうか?」
関白「もちろんでございます。こちらへ」
従者が恭しく運んできた箱を自らの手で開いて俺に見せる関白。中には光り輝く蓬莱の玉の枝が鎮座していた。