弐百肆拾玖.お前だったのか
?(とうっ)
グキッ
?(あいたたた。腰が)
三重塔の窓から飛び降りて空中で宙返りをしたところまでは良かったが、着地の衝撃に耐えきれず腰を捻ってしまい、腰に手を当ててうずくまる老人。
頭は禿げていてひげを長く伸ばし、簡素な唐風の衣をまとった痩せたその人物は、どう見ても不法に建物に住み着いている浮浪者だった。
俺「お爺ちゃん、どこの神さまが分からないけど、ここは賀茂別雷大神ていう偉い神さまのお家だから勝手に住み着いちゃダメだよ」
老人(ええんじゃよ、細かいことは気にせんでも。それより、ほれ)
俺「え? きゃっ」
老人(ほほほー。ええ乳しとるじゃないかー)
復活した老人が軽く指を振ると、狩衣の下で俺の胸を押さえていたさらしがはらりと外れてしまった。なんか、前にもこんな展開があった気がする。
俺『てめぇ、爺!』
老人(む。その服の方はちょっと変わっておるな)
老人はどうも上の狩衣まで何かしようとしたようだ。ただ、この狩衣は天照が作った特別性なので、ちょっとやそっとで何かあるようなやわなつくりにはなっていない。
て言うか、もう切れた。
俺「別雷の名により、我が敵を滅す」
…………
俺「あれ? 別雷の名により、我が敵を滅す!」
……………………
二度呪文を唱えたが、何も起こらない。おかしいな。何か間違えた?
老人(ほほほ。お主、珍しい加護を持っておるな。その呪文、久しぶりに聞いたわい)
俺「…………、もしかして、あなたが賀茂別雷大神!?」
老人(ようやく気付いたか)
俺「え、でも、別雷って若い雷って意味だから、てっきり若々しい神様だと」
別雷(ほっほっほ。心は若いんじゃよ。後、あっちのほうも……)
ドゴッ
ふむ。物理攻撃には割りと弱いと。
良からぬことを口にしようとした別雷が口を開く前にぶん殴ったところ、後ろ向きにふっ飛んでいって頭から三重塔にぶつかった。
別雷(老人は大切にせんか!)
しかし、大したダメージはなかったらしく、元気そうな様子で抗議の声を上げている。残念。