弐百肆拾捌.三重塔
周りが薄暗い上に目から火花が散って一瞬何も見えなくなったが、ようやく視界が回復してくると、泣きそうな雪の顔が目の前に見えた。
俺「あいたたた」
雪「よかった。ご無事で」
どうやら落とし穴に落ちたらしい。浮かれてはしゃぎ過ぎたようだ。
俺「誰がこんなところに落とし穴なんて掘ったのかしら、全く」
雪「かぐや姫さまがちょっと調子に乗りすぎたのですよ」
俺「……、反省します」
俺は背の高さほどもある穴からひょいと飛び出して、狩衣の裾をぱんぱんとはたいた。魔法の衣はそれだけで元通りの綺麗な衣に戻った。便利。
ふと視線を上げてみると、さっき雪といたところから随分離れたところに来ていることに気がついた。
俺「雪、もしかして走った?」
雪「はい」
俺「怖くなかった?」
雪「もちろん怖かったです。でも、かぐや姫さまのことが心配で」
俺「っ……、かわいい」
雪「かぐや姫さま!?」
急に雪が愛おしくなって思わず雪をぎゅっと抱きしめると、雪はびっくりしていた。
そのまま少しして、身体を離して雪の手を握って、再び並んで歩き始めた。
俺「あの霧の中みたいだね」
しばらく歩くと行く手に霧がかかってきたと思ったら、急に霧が濃くなって気がつくと建物の前に立っていた。ここはいちいち演出に凝ってるな。
建物は3つあり、左右は三重塔で真ん中の奥が平屋の建物だった。そして、その全体を四角く回廊が取り囲んでいた。なんて言うか、すごく奈良時代の仏教寺院ぽい感じだった。神さまが三重塔に何の用があるんだ?
?(来客とは珍しい)
俺「誰!?」
どこからか聞こえてきた念話に俺は辺りを見回した。
?(こっちじゃよ、こっち)
念話は上の方から響いてきたので、視線を上にあげてみると三重塔の最上階の窓から誰かが身を乗り出して小さく手を振っていた。