弐百肆拾弐.地上の支配者
天照が念話の出力レベルを上げたので、今度は帝にも周囲の人間にも天照の言葉が理解できたようだ。
帝が更に何か言おうとした時、天照が軽く手を振ると、どこからとなく剣が飛んできて天照の目の前の床に突き刺さった。次いで、鏡と玉が天照の周囲を飛び交う。
実物を見るのは初めてだが、この組み合わせは間違いなく三種の神器だ。帝の正統性を証明するとされ、神代の時代から受け継がれている宝物。その実態は強力な魔法具だった。
もはやニニギに授けられた加護も弱まってしまい、歴代の帝がこれを使いこなす神力を失って久しいが、正しく使えば今の天照のような状態になる。
周囲を飛ぶ鏡は自律型の盾に、玉は同じく自律型の魔法砲台に、剣は手にとって魔剣として使われる。ちょっとだけファンネルを周囲に飛ばすガン○ムのようにも見えなくもないとか言うと台無しな気がする。
帝「まっ、まさか、天照大御神さま!? それにかぐや姫!」
天照『かぐや姫さまだ。お前のようなものが呼び捨てていい相手ではない』
そう言うと同時に、神璽(=三種の神器の玉のこと)ファンネルから冷気の塊が打ち出されて、帝の足元に氷の刃の形を取って突き刺さった。
帝「ひっ。かっ、かぐや姫さまは天照大御神さまとはどういうご関係で?」
天照『姫ちゃんはあたしにとって、世界で一番大事な人だ』
そう言うと、天照は指をぱちりと鳴らして、次の瞬間、俺と天照を除く内裏にいる全員が一斉に倒れた。
俺『あああーーっ』
天照『大丈夫。死んでないよ。ちょっと眠らせただけ』
そう言われて、近くに倒れている宿直の人の手を取って恐る恐る脈を見たところ、確かに生きているようだ。よかった。
俺『お前、何考えてんだよ。顔、完全に見られちゃったじゃないか! これからどうすればいいんだよ!!』
天照『大丈夫。目を覚ます頃には今夜のことはみんな忘れてる。覚えてない? 神さまは基本的に人間の記憶に残らないように、接触した後は記憶を消すって前に言ったよね』
そういえば、そんなことを言ってたような気も。確か、俺と天照の昔話を聞いた時に。
俺『じゃあ、だったら何でこんなことを?』
天照『記憶は消すけどね、暗示くらいは残してもいいんだよ。二度と姫ちゃんに逆らう気も起こさせないほどの強烈な暗示をね』
くっくっく、と忍び笑いをする天照は、最高神というよりも大魔王というほうが圧倒的に似合っていると思った。今度、魔王のつけ角でもプレゼントしてやろう。
天照『さて、これで姫ちゃんが名実ともに地上の支配者になったところで、戻ってケーキを食べよっか』
俺『名も実も地上の支配者なんかになってない!』
天照『もー、姫ちゃんたら』
俺『事実だ!』
天照は俺に本気で地上を支配させたいんだろうか? それは全力で遠慮させていただきたい。
天照『それよりも、姫ちゃん。ケーキのいちごはね、富士山の麓に開発した神域で採れたいちごなんだよ。富士山の霊脈から霊力をたっぷり吸い上げたあまーいいちごなんだよ』
俺『なんか、食あたりしそうだな、それ』
まあ、とりあえず、今回は人死が出なかっただけでもよしとしてもいいんじゃないか。
天照『あ、そうだ。これ』
そう言って、天照は俺の手に何かを握らせてきた。
天照『燕の子安貝。安産のお守りだから大事にしてね』
お前、俺に一体誰の子を孕ませるつもりだ!?
竹取物語の原作ではかぐや姫は帝には少し情があるようにも読めます。しかし、本作ではそんな特別扱いは一切ないのです。帝といえども天照の餌食になってもらいました。
というわけで、申し訳ありませんが次回更新までまた少し間が開きます。冬休み期間に入るので次の更新は年明けになるかもしれません。できれば年内にもう一度更新したいですが。