弐百肆拾.セイフティ
天照『!』
俺『!』
式神に何かが起きた。
天照が鋭い反応を見せたその瞬間、俺はそう直感した。多分、俺と式神の間にある記憶のリンクが急に変化したのがその違和感につながったのだと思う。
俺『天照』
天照『姫ちゃんの式神が消滅した』
俺『なんで?』
天照『分からない。式神には安全装置としてすごくびっくりした時に強制的に紙に戻る機能があるから、それが発動したせいだと思うけど』
俺『なんでそんな機能を』
天照『最終兵器には安全装置が必須なんだよ! そうじゃないと、うっかり世界を滅ぼすかもしれないんだよ!! 浪漫なんだよ!!!』
何を言っているのか分からないが、無駄機能だということはよく分かった。
俺『とにかく式神の身に何か起きたのは確実なんだな』
天照『うん』
俺『じゃ、いくぞ』
雨(置いてかないで!)
湿布が何か言っているが、湿布なので無視して急いで屋敷に戻った。
雪「かぐや姫さまっ」
俺「雪、どうしたの、一体?」
俺たちの姿を見ると、雪は俺たちの元に駆け寄ってきた。
雪「急に帝がいらっしゃって、かぐや姫さまに会わせるよう、仰ったのです」
天照『ほお?』
あいつか。いきなり事前連絡もなく来るなんて無礼なやつだな。きっぱり追い返してしまえばよかったのに。
とはいえ、この世界の常識だと、帝がやることは基本的には何であっても正しいことだから、応対を間違えるとこっちが罪に問われてしまう。雪にそれを求めるのは酷というものか。
ちなみに、この屋敷の結界の侵入者排除機能はこの家の住人なら解除できる。この離れにしても、雪が許可したら誰でも入ってこれるのだ。
雪「それで、式神さまが代わりに帝とお話をされたのですが、帝が式神さまを口説かれていたかと思うと、急に式神さまを押し倒して、そうしたら式神さまが急に消えてしまって……」
天照『死刑』
俺『ちょっと待て』
天照『だって、姫ちゃんが出掛けてなかったら、犠牲者は姫ちゃんだったんだよ』
俺『俺だったら返り討ちにしてやったよ』
天照『大体、そもそも姫ちゃんにそういうことをしようという考えそのものが犯罪だよ』
天照は雪の話に怒りまくっていて、なぜか俺がなだめ役に回っていた。でも、被害者はむしろ俺なんじゃないの?
俺「雪はなにもされなかったの?」
雪「はい。私には何も。帝は式神さまが消えた後、すぐお帰りになりました」
天照『姫ちゃん、行くよ!』
俺『どこに!?』
天照『決まってるでしょ。神に仇なす愚かな眷属にきつーいお灸をすえてやるのよ』
ああ、日本、終わったな。