弐百参拾漆.世界の終わりの始まり
天照『痛い。痛いよ、姫ちゃん。何するの?』
俺『とりあえず、一緒に来い』
天照『え、そんないきなり。ダメだよ。まだ心の準備が……』
俺『中納言の所だ』
天照『何で!?』
俺『ついでに雨も一緒に来い』
雨(何で!?)
俺『……、多分何かの役に立つだろ』
さすがに単に視界にいたからとは言えなかったので、本当に何か役に立ってくれるといいな。
俺と天照、ついでに雨こと天児屋は空を飛んで中納言の屋敷の上空に来た。そこで俺は用意しておいた催眠香をいくつか取り出して、火をつけてばらまいた。
天照『ねえ、姫ちゃん。どうしてこんなとこに連れてきたのよ。納得のいく説明はしてくれるんでしょうね』
俺『お前は前に雪に叱られたことがまだ懲りてないのか』
雪に叱られたというのは、上巳の節会で酔っ払った雪に説教された件のことだ。あの時、雪は天照に無節操な力の行使を戒めていた。
天照『え、あたし、雪ちゃんに叱られたことあったっけ?』
俺『覚えてないのか……』
神さまのくせに酒で記憶が飛ぶとかありえん。
俺『とにかく、お前はやり過ぎなんだ。子安貝を取りそうになったからって死にそうなほどの怪我をさせる必要はないだろ』
天照『まさか、姫ちゃん、実はあの変態のことを愛して……』
俺『違うっ!!』
雨(そんなひどい。ご主人さまには僕というものがいるのにっ)
俺『雨はどうでもいい』
雨(ガーン)
ショックを受けた雨が墜落していったが、まあどうでもいい。頭でも打ったら少しはマシになるかもしれない。
俺『何度も言うけど、お前はやり過ぎなんだ。そんな調子でいたらそのうち世界が滅びるぞ』
天照『姫ちゃんと一緒なら世界が滅んでもいいの!!』
俺『そのセリフは余裕で世界を滅ぼせる力を持った奴が言うと洒落にならん』
天照『……、姫ちゃんの……、バカーッ!!』
俺『とか言って、勝手に逃げるな』
天照『グエッ』
旗色が悪くなって逃げようとした天照の首に投げ縄を投げて手繰り寄せた。ちなみにこの投げ縄は、雨をいつでもお手軽に縛り上げられるように常備しているものだ。
天照『ひっ、姫ちゃ、首、くっ、くるし……』
俺『いい加減に観念して中納言の治療をしていけ』
天照『だっ、だが断……、グフッ』
死んだふりはむしろ都合がいいので、さっさと下まで降りてしまおう。