弐百弐拾玖.酒呑童子
雪「豪華ですねー。素敵です」
墨「にゃー」
だめだ、だめだよ、雪。騙されてるよ。お内裏様が2人もいるんだよ? 3人官女がイケメンに置き換わってるんだよ? それがどういうことかを考えるべきだよ。
雨(ご主人さま、百合の節句はないの?)
俺(あるわけないだろっ!)
頭痛い。二日酔いじゃないのに。
天照『さて、本日集まってもらったのは、他でもありません。今日は姫ちゃんの初節句ということで、みんなでお祝いしようということであります』
俺以外「『(おー)』」
天照『というわけで、お手元にあるのはあたしからのささやかな差し入れです』
俺以外「『(やんややんや)』」
天照『みんな、盛り上がって行きましょー』
そう言って天照は右手に持った盃を前に突き出した。合わせてみんなも手に保った盃を前に掲げる。
え、また呑むの?
天照『かんぱーい』
そんなわけでまたもや酒盛りが始まった。
せっかくのお祭りだからと、用がなければ呼び出したりはしない式神まで天照が勝手に召喚したが、どうやら式神は下戸らしく、うっかり酒を勧められないよう珍しく隅っこで静かにしていた。
そして、その酒を勧めてまくっている1人のが天照だ。今は月☆読にどんどん飲ませながら、自分もどんどん飲んでいる。まず面倒な月☆読を酔い潰してしまおうという魂胆か?
さらに、もう1人酒を勧めまくっているのがすせり姫だった。呑まされているのは墨と雨だ。
最初は面白半分にすせり姫と雨に酒を呑まさせられた墨だが、それはどうやら禁断の果実だったらしい。つまり、墨はいわゆる「ざる」とか「うわばみ」とか呼ばれる類だったようで、一気飲みした一升瓶を胸に抱えてほっぺたに手を当てて幸せそうな顔をしている。
その横では、もう半分寝ている雨がすせり姫に起こされて盃を持たされていた。前にスサノオのところで呑んだ時もそうだが、雨はお酒を呑むとすぐに寝てしまうのだ。それが、絡み酒のすせりと酒呑童子となった墨に挟まれて一向に寝させてもらえなかった。
そんな酒飲みたちを横目に、俺は大国主と雪の3人で静かに呑んでいた。正確には、大国主と雪は呑んでいたが、俺は1滴も呑んでいない。ちょっとお酒はこりごりだった。
大国主(課金が辛くて円盤が買えないんだよぉ)
大国主はそんなことを愚痴っていたが、俺にそんなことを言われても困る。
話はそれを起点にして現代へ戻る方法へと移っていった。大国主はあれから俺を現代へ返す方法について研究を続けているらしい。
大国主(雪さんと一緒に現代に帰るという点はそんなに難しくないんですよ。1人送るのも2人送るのも大きな違いはないので、追加で必要な神力も大したことはないんです)
その辺りはいろいろと小難しい理屈があるようなのだが、よく分からないし興味もないのでばっさり割愛する。
大国主(それより、問題は1人目のかぐや姫さん自身の方なんです)
俺『俺?』