弐百拾陸.本物
右大臣「そしてとうとう見つけました」
そう言って、右大臣は自らの手で白い布の包みを取り、中のものを取り出した。
俺「あっ」
それを見た瞬間、俺は思わず大きな声を上げてしまった。
右大臣はそんな俺の様子に自信を深めたのか、得意げに笑みを深めた。
それは紛れもなく本物だった。一目見ただけで本物だと分かった。本物の魔法具だ。
なぜそれがこんなところにあるのか。常人が手に入れることなんてほとんど不可能なはずなのに。
爺「これは、本物ですか?」
右大臣「もちろん」
それは艶やかで虹色の光沢を持つ見事な毛皮で、誰の目にも並のものではないことは明らかだった。
爺「さわっても?」
右大臣「どうぞお手にとって確かめてください」
するすると近づいた爺は、恐る恐る手を伸ばして毛皮に触れ、再び驚いて、丁寧に感触を味わうように何度も毛皮を撫でた。
爺「これは素晴らしい。これほどの毛皮、この長い人生の中で見たことも触れたこともありません」
右大臣「そうでしょう、そうでしょう」
何度も毛皮の感触を確かめながら褒めちぎる爺に、満悦至極な様子で答える右大臣。
雪「かぐや姫さま」
雪が心配そうに俺の様子を伺うが、俺の内心はそれどころではなかった。
やばい……。どうしよう……。
正直、絶体絶命のピンチだ。
爺「かぐや姫。これはあなたの負けですね。これほど立派なものを用意されては、あなたも納得しないわけにはいかないでしょう」
婆「かぐや姫、おめでとう」
爺と婆はもう俺が右大臣と結婚する気でいるようだ。ようやく肩の荷が下りたようなホッとした表情をしている。
右大臣「かぐや姫殿、改めて言わせて頂きます。私と、結婚してください」
課題の品の検分が済んだと見た右大臣は、居住まいを正して顔をきりりと引き締め、改まってそう告げた。
対する俺は、きっと化粧の下に隠されて周囲からはわからないものの、蒼白となっているに違いない顔を右大臣に向けて、首を横に振った。
俺「い、……、嫌です」
右大臣「ど、どうして?」