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弐百拾弐.なせばなる

 俺『でも、それと俺が女になったことに何の関係があるんだ?』

 天照『時間転移は世界が犠牲になって消滅したものの穴埋めをしようとする力を利用してるんだ。そのせいで、姫ちゃんの場合、竹取物語が世界から消滅した代わりに姫ちゃんがかぐや姫になったんだよ』


 なるほどね。竹取物語を読んでたのは偶然だから天照に選択肢はなかったってことか。


 天照『どうせなら源氏物語を読んでたらよかったのに。そしたら、超絶美男子になってたのにさ。きっと「ひかるくん」とか呼んだら振り向いて歯がキラキラしてたりして』


 そうしたら今度は世界最古の長編小説が消滅してたんだな……


 天照『あ、でも、源氏物語だと光くんは奥さんをいっぱい作っちゃうからそれはそれで嬉しくないかも』


 ふむ。そうなると、俺はハーレムの主人になってたのか。それはちょっとやってみたかったかもな。男にモテモテの今の逆ハーレムは正直全然嬉しくないし。


 天照『やっぱり姫ちゃんは今の姫ちゃんでよかったんだよ。大丈夫。性別なんて何とかなる。ちょっと頑張って生やせばいいだけなんだから』

 俺『待て待てっ。何を生やして何をするつもりだっ』

 天照『そりゃ、もちろん……』

 俺『いや、待てっ。話さなくていい。ていうか、言わないで。怖いから聞きたくない』


 神さまが妙なことを口にしたら、本当に現実になっちゃいそうで怖いよ。言霊だよ。言霊。


 天照『大丈夫。優しくしてあげるから』


 再び天照にぐっと近づかれた俺は、本能的に身の危険を感じて飛び退いた。やっぱり俺が受けになるんだよね、その場合。


 俺『まっ、待てっ。せめて俺に生やせっ』

 天照『……っ、……、ははははは』


 いたずらっぽい笑みを浮かべて近づいてくる天照を、手を前に突き出して巧妙にガードしていると、突然、天照がこらえ切れないように笑い出した。


 呆気にとられて見ていると、ようやく笑いの波が止んだ天照が目尻を指先で拭いながら言った。


 天照『今みたいな時にはね、普通の人や神さまなら恐怖に引きつった顔をして、なりふり構わずあたしを拒絶するのよ。なのに「俺に生やせ」なんて、……、ははははは』


 天照はまた笑いの波がぶり返してきたようだ。どうにか堪えようとしているのか、お腹を押さえて肩を震わせている。


 天照『そういうところが、好きなんだよ。あたしを特別な目で見ないところが。だから、どうしても一緒にいたくて、たった1000年が待てなくて呼んじゃったんだ。……』


 天照は続けて何か言おうとしたが、その先の言葉が予測できた俺は言葉にする前にその身体を抱きしめてやった。


 俺『分かってる。だから、もう「ごめん」なんて言わなくてもいいからな』

 天照『……、うん。ありがと』


 もう一度ぎゅっとしてあげて、それから身体を離すと、天照は満足そうに微笑んでいた。今日、最初に見たような不安そうな表情は全く残っていない。


 俺『ごめんな。イッチーたちのことでよく事情も分からないのに怒ったりして』

 天照『ううん。姫ちゃんが怒らなきゃいけないと思った理由は分かったし、そこで本当に怒ってくれるのが姫ちゃんのいいところだし。だって、よく考えてみて。前に暴走した時なんて周りの神さまは問答無用であたしを封印してきたりしたんだよ!』


 ああ、確かに、怒りも諭しもしないで即封印とかひどいな。他に方法がなかったのかもしれないけど、やられたほうとしてはやりきれないと思う。


 天照『本当に姫ちゃんに会えてよかったよ』


 そう言って、今度は天照の方から抱きついてきた。


 そして、一度だけぎゅっとすると、すぐに離れて廊下をさっと渡り、早業でふすまをぱっと開いた。


 すると、ふすまの向こうで張り付くようにこちらを伺っていた雪が、月明かりの下に現れたのだ。


 雪「あっ……」


 えっ、今のやりとり、全部見られてた!?

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