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弐百拾.昔話

 天照の話は、俺にとって未知の話だった。神話にすら書かれることはなかった世界創世の物語。その始まりは天照がとある豪族の娘として生まれたときに遡った。


 その豪族は、周囲の他の豪族を束ねる立場にあり、また神に祈りを捧げ、神の言葉を聞く神官としての役割も果たしていた。名をニニギと呼んだ。


 ニニギは自らの力を強化するために、まだ10歳にもならない娘を生贄に危険な呪術を行うことにした。天照大御神の力を娘に宿らせ、娘を最高神と同化させるという術だった。


 成功率は極めて低く、神の怒りを受けて娘はおろか、一族諸共に滅びる可能性すらあったが、どういうめぐり合わせか術は成功し、娘は天照となった。


 これにより天照の加護を得たニニギとその子孫は、その後、数々の豪族を従えて日本平定に邁進していくことになる。


 さて、天照となった少女のこと。


 突然、人間でなくなったという精神的ショックに加えて、人間の精神では支え切れないほどの力を受け入れることになった彼女は混乱し、暴走した。


 その過程で、高天原は破壊され、その余波は葦原中国や根の国にまで及んだ。そのため、仕方なく神々は暴走する天照を誘導し、天岩戸に封印した。


 しかし、太陽神を封印することは世界から太陽を奪うことを意味していて、世界はさらなる混乱に陥った。


 そこで悩んだ神々は、封印されたショックで気を失った天照を天岩戸から運び出し、高天原に新しく立てた御殿へと移した。


 その御殿は天照の行動そのものを縛ることはないものの、天照の神力の大半を敷地内に閉じ込めるように作られた対天照専用の結界で、太陽神としての業務をこなすこと以外には、ほとんどすべての力を無効化するような非常に複雑な作りになっていた。


 以来、天照は、月☆読の献身的なサポートを受けながら、未だに結界から出ることなく太陽神としての務めを果たし続けているのだ。


 俺『って、だったら今ここにいるお前は誰なんだよ』

 天照『分身かな』

 俺『閉じ込められてるんじゃないのか』

 天照『最高神の力を完全に封印できる結界なんてあるわけないから、ちょっとずつ力が外に漏れ出しててね、それを集めて作ったのがこの身体なんだ。器用なもんだと思わない?』

 俺『……つまり、式神みたいなものか』

 天照『ちょっと違うかな。姫ちゃんの式神は見た目は同じで記憶も共有してるけど、中身は別の人格でしょ。でも、あたしの場合は分身と本体は同じ人格だし、むしろここにいるあたしの方が人格の中心だから』

 俺『ちょっとよくわからないんだけど、人格が同じだとどうなるんだ?』

 天照『記憶レベルじゃなくて意識レベルで共有されるの。そうすると例えば、今ここであたしが本体の身体を動かすこともできるのよ』


 要するに、分身と本体の両方が同時に身体の一部として認識されてるみたいな感じか。右手が分身で左手が本体みたいな。


 俺『なんで、分身に中心があるんだ? 普通、本体の方じゃないのか?』

 天照『本体の方に意識を合わせるとキツイんだよね、力が強すぎて』

 俺『ああ』


 そういえば、それで我を失って暴れたのが結界に閉じ込められた原因だったって言ってたな。


 天照『さすがに結界もあるからもう暴走とかはしないけどね。でも、行事とかで本体に戻らなきゃいけないときはやっぱり嫌で、分かってるのに逃げ出してその度に月☆読に連れ戻されちゃうんだよ。てへへ』


 天照はそういって舌をちょっと出して照れたように笑っている。


 そう言えば、前に天照が行事の準備をサボって逃げているところを月☆読が追いかけて来たことがあったっけ。あの時はふざけてるだけだと思ってたけど、実はそんな洒落にならない理由があったんだな。


 天照『姫ちゃん?』


 俺は思わず天照の頭を優しく撫でていた。


 俺『頑張ってるんだな、お前』

 天照『……うん。ありがと』


 天照は頭を撫でる俺の手を嫌がることもなく、ただ気持ちよさそうに目をつむってされるがままにしていた。

ここに書いた昔話は創世神話とは異なります。この小説内でも古事記や日本書紀は現存するものと同じ内容が書かれているという設定ですが、現実の神の世界で起きたことと創世神話とは必ずしも一致しないというのがこの小説のスタンスですので。


ニニギは、創世神話では天照の孫ということになっていて、天孫降臨といって地上である葦原中国を治めるために派遣され、天皇の祖先となりました。


また、天岩戸の話は天孫降臨よりもずっと前、スサノオとの誓約の後で高天原追放の前の出来事とされています。でも、昔話ではニニギの娘が天照となる前にスサノオは高天原を離れています。

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