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弐百参.女の危機

 さて、当日、きちんと衣冠を着込み、長い髪を魔法を掛けた冠に隠して、どこから見ても男に見えることを確認してから、徒歩で内裏を目指した。


 爺と婆も試楽を見ることになっているので、2人は牛車に乗って内裏に向かっていた。だけど、今日みたいな日は宮門の付近は牛車で溢れているんじゃないだろうか。基本的に男性は皆、宮門の前で牛車を降りて門をくぐるから。


 試楽はすばらしい出来だった。観客席は大いに盛り上がって、誰も彼も大満足だった。


 ただ、俺に限っては、試楽の終了間際から大問題が発生していた。


 俺「おしっこしたい」


 すでにかなり我慢していた俺は、試楽が終了してすぐ雪と雨にそれを伝えた。他の人がトイレに集まって混雑する前にいち早く用を足してしまいたかったからだ。


 可能なら一度体験して比較してみるといいと思うんだけど、女の子の身体は、男に比べておしっこが我慢しにくいような気がする。多分、長さが短いからだと思うんだけど。


 まあ、とにかくピンチなのだ。


 雨(大丈夫。いざという時は僕が直接飲んであげるよ)

 俺「変態。殺すよ」


 ところが、内裏の構造がよく分かってないせいでトイレがどこにあるのか全く分からない。似たようなことが墨を連れた時にあったけど、自分が当事者になるとこれほどしんどいとは。


 内裏は3回目のはずじゃないかと思うかもしれないけれど、毎度違う建物だし、そもそも男と女では用の足し方が違うから、前の経験なんて全然役に立たないのだ。


 女の場合、基本的にあまり歩かないで生活するため、樋箱ひばこという名前のいわゆるおまるを部屋に持ってきて用を足すのだけど、男の場合は自分で歩いて樋殿ひどのという場所まで行ってそこで樋箱ひばこを使うのだ。


 だから、女の俺がつかうはずもない樋殿ひどのの場所を知ってるわけがないじゃないか。


 ああ、もうダメかも……


 雪「かぐや姫さま、気を確かに持ってください」

 雨(僕はいつでも準備OKだよ)


 もはや、しつこい雨にもやり返す元気も出てこない。いっそのこと、雨の言う通りにすれば楽になれるのかな。


 ダークサイドに落ちそうになったその時、視界に見知った人影が映り込んだ。


 中納言「おや、竹仁殿」

 俺「中納言さま!?」

 中納言「なんだ、来ていたのか。なら、そう言ってくれればよかったのに」


 やばい。どうしよう。このまま中納言を振り切ってトイレ探しに戻ったら、さすがに失礼だよな。でも、もう我慢が……


 中納言「そういえば、讃岐殿もご夫婦で来ていたが、あいさつはしたかな?」

 俺「……いえ、……まだでございます」


 讃岐殿というのは爺のことだ。讃岐造さぬきのみやつこという名前からそう呼んでいるのだろう。というか、こんな雑談してる場合じゃないんだってば。


 中納言「ここだけの話だが、讃岐殿は追儺召ついなめし除目じもくでとうとう三位になるそうだよ。本当に驚くべき勢いだね」

 俺「は?」


 やべ、びっくりして思わずちょっとちびっちゃったよ。恥ずかしーっ。臭ったりしないよね。お願いだから気づかないで。

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