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弐百壱.ピロートーク

 翌日は夜に、場所を変えて清涼殿で御前試おんまえのこころみといって、やはり同じように練習を帝に披露する。清涼殿は帝が昼間仕事をする部屋で人にも見られるので、昨日のようにちょっかいを掛けて来ることはなかった。


 その次の日は新嘗祭初日。この日、舞姫は特にやることはない。本番は新嘗祭2日目の豊明節会だからだ。


 とはいえ、暇というわけではなく、衣装合わせをしたり、段取りの確認をしたりと、むしろ前の日よりも忙しかったくらいだ。舞姫本人もだが、それ以上に付き人たちが大変そうだったけど。


 夜になって、ようやく落ち着いた頃に、再び中宮がお忍びでやってきた。だけど、何かいつもと違って沈んでいるように見える。


 俺「中宮さま、どうしましたか?」

 中宮「ん、別に、何もないわよ」

 俺「そうですか? いつもより元気がないような気がしますけど」


 俺が中宮をじっと見つめると、最初は作り笑いを浮かべていた中宮だったが、やがて肩の力を抜いたようにして視線を落とした。


 中宮「……、やっぱりかぐや姫さんには隠せませんね」


 そうして、中宮は昨日起きたことを話し始めた。プライベートな内容なので婉曲的な話し方だったが、想像で補間しながら要約するとこんな感じだ。


 昨日、中宮は御前試の後で帝に求められたらしい。それはまあどうやらいつもより気持ちが入っていたらしいのだが、その後の寝物語に俺の話が出てきたのだ。


 どうやら中宮の心配通り、帝は俺のことに興味を持ったようだった。それで、俺と交流のある中宮に、俺が女御として適切かどうか尋ねたのだ。


 問題がありそうなら1回限りの関係として、そうでなければ女御として受け入れることを考えているらしい。


 中宮は、今は公卿の方々が俺と結婚するための課題に取り組んでいるところだと言うと、帝は、あのような無理難題はむしろ体よく断るための口実に過ぎないと言って相手にしなかったのだそうだ。


 それで、仕方なく中宮は、俺は素晴らしい女性で女御として何の問題もあるはずもない、と答えたのだ。


 というか、1回限りの関係とかどういう意味だよ。


 寛子「ふっ、ふざけないで頂戴」


 俺が何か具体的な返事をする前に声を荒げたのは寛子だった。


 寛子「なんでこんなどこの馬の骨とも分からないような女が、私よりも先に帝の関心を引くようなことになるのよ」

 中宮「寛子さん?」


 突然の寛子の乱入に驚いたのは俺だけではなかった。中宮も俺だけに向けていた視線を寛子に向けて目を見開いている。


 寛子「明子さんなら理解できますわ。納得はできませんけれど。でも、この女は急に成り上がってきたもともと貴族でもなかったものが取った、誰の種とも分からない養女ではないですか。そんな女のどこが女御として問題ないのですか!?」

 中宮「寛子さん。それはかぐや姫さんに失礼です」


 中宮がたしなめようとするが、寛子の興奮は収まらない様子だ。


 寛子「帝の側に侍るのは、次の帝を産むものです。それは、家柄、後見、容姿、教養、健康、すべて揃ったものが勤めるべきなんです。私はこれまでそうやって頑張って来たんです。それなのに、どうして私よりずっと劣ったものに目の前で先を越されなければならないんですか? 私は、私は一体……」


 そう言って、とうとう寛子は泣き出してしまった。


 これにはさすがに俺もどうしたらいいのか分からず硬直するばかりで、中宮もどう声をかけたらいいものかと手を伸ばしかけてまた引っ込めてしまった。


 明子「ええ。分かりますわ、寛子さん。私も同じように言われて育てられて参りましたから」


 2人が動けなくなっている中、それまで側でじっと成り行きを伺っていた明子がすっと立ち上がると、寛子の側に行って肩に手を置いて話しかけた。


 明子「でも、結局のところ、どなたをお側に置かれるかは全て帝がお決めになること。私たちが決められることではありませんわ」

 寛子「分かってる。分かってる。分かってるけど……」


 この時代の貴族の女性として生まれ育ったわけではない俺は、彼女たちの苦悩について、何も語る言葉を持っていなかった。


 ただ言えることは、またしても俺は誤解していたのだが、寛子もまた与えられた運命に翻弄される1人の少女だったということだ。


 翌日の豊明節会にて行われた五節舞は、特に何事もなく、つつがなく終了した。


 居並ぶ帝、公卿、殿上人は皆、舞姫の美しさに相好を崩していた。それは何も俺だけのためではなく、雪、明子、寛子も皆、それぞれに美しく、列席者の目を楽しませていたのだ。

というわけで、短いですがこれで五節舞編は終わりです。


1回分だけお休みを頂いて、すぐに次のエピソードを始めたいと思います。次回更新は水曜日になります。

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