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弐百.帳台試

 竹仁の時に関白から受けたのと比べてもずっと直接的で強烈な軽蔑と悪意を含む態度に、俺は思わず少し怯んでしまった。


 俺「私は、色目なんて」

 寛子「公卿を5人もたぶらかしておいて、いまさらそんな純情ぶるつもりですか。白々しいですわ。一体、どんな夜の技を持っているのやら」

 明子「寛子さん、それは失礼ですわ」

 寛子「これは、明子さん。お兄さんは失踪からお戻りになられましたか?」

 明子「兄は失踪などしておりません」

 寛子「おや、戻る当てもどこへ行くかも分からないまま家を出てしまうことを失踪というのではありませんでしたか?」

 明子「……」


 明子は悔しそうに唇を噛んだ。確かに、寛子の言うとおり、実在するかも分からない蓬莱の玉の枝を取りに行った関白は、客観的に見たら失踪と言われても仕方ないかもしれない。


 しかし、そんなことを言ったら、寛子の実の父の大納言だって……、と切り返したくても、さすがにその課題を出した本人がそれを言うのは気まずいくて気が引ける。


 雪「あの、私は大丈夫ですから」


 相変わらず雪は自分が犠牲になって事態を収めようとした。だけど、もう寛子は俺も明子も中傷しているので、そんな簡単に事態が収まるはずもなかった。


 というか、俺の腹の虫が収まらない。


 俺「あのさ」

 明子「雪さん」


 何か言い返してやろうとした俺を手で制して、明子は雪に声を掛けた。


 明子「私と場所を交代しましょう。こちらなら寛子さんと身体がかぶることはありませんわ」

 雪「え、でも」

 明子「いいんです」

 雪「はい」

 明子「寛子さん、五節舞は4人で舞うものです。1人だけ舞台の端で舞うと舞のバランスが崩れて出来の悪いものになってしまいます。あなたは、不完全なものを帝にお見せするつもりですか?」

 寛子「……、ふん。まあいいですわ。その代わり、出来の悪い舞を舞うようなことがないように、せいぜい頑張ってくださいね」


 そういうと、その後は寛子は黙ったまま、淡々と舞の練習を始めた。俺たち3人もまた無言で練習を進めるのだった。



 帝は夜半すぎに現れた。


 前々日の夜は、帳台試ちょうだいのこころみと言って、こうやって帝が練習場を訪れて練習を見るという習慣になっているのだ。


 夜中に女性だけで練習しているところに最高権力者である男性が訪れるとか、エロい想像しかできないのは俺だけでしょうか? まあ、本当に変なことをしようとしたらお仕置き確定だけどね。


 帝の容姿ははっきり言って普通だった。中納言や関白のほうが全然美形だよな。背も特別高いわけじゃないし。


 舞を舞い終わって平伏していると、帝が俺の方へと歩いてきた。


 帝「顔を上げなさい」


 帝に言われて顔を上げると、思ったより近いところに帝の顔があって、しかもバッチリ目が合ってしまってびっくりした。


 帝「確かに美しい。関白が熱を上げるのは仕方ないな」


 そう言って、何も断りもしないで手を伸ばして俺の顔を触ろうとして来やがった。


 パチッ


 しかし、そんな気安く触れるほど俺のガードは甘くない。帳台試があることを知っていたから、念のため俺の身体の周囲に結界を張っておいたのだ。


 これで俺の許可しないものは絶対に俺に触れることはできない。


 帝「なるほど。神の化身という噂は強ち嘘ではないのだな」


 そう言って立ち上がると、帝は後も振り返らずに去っていった。


 後から寛子が俺のことをすごい顔で睨みつけていたのがすごく怖かった……

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