百玖拾漆.ペンフレンド
明子「かぐや姫さまは、やはりお噂通りのお美しい方ですわね。兄が熱を上げるのも分かる気がします」
俺「そんな、とんでもございません」
そういう明子も非常に見目麗しい令嬢にちがいなかった。中宮も美人だったけど、それに匹敵するくらいの美人だ。ただし、明子のほうが若い。ちょうど高校に入学したばかりの女子高生くらいに見える。
がちがちの雪を励ましながら3人で舞を合わせているうちに、すっかり話も弾んで雪もようやく打ち解けてきた。
中宮「あら、もう始めていらっしゃるの?」
明子「中宮さま」
不意に中宮が訪ねて来たので、俺たちは慌てて座って礼をすると、中宮は笑って、
中宮「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。今はプライベートですから。あら、もうおひと方は?」
と聞いた。そうなのだ。まだ、この場に、大納言の娘の寛子が来ていなかった。
俺「まだ、見ておりませんわ」
中宮「そうですか。せっかく、差し入れをお持ちしましたのに」
そう言って中宮は女房に菓子を持ってこさせて、自分もその場に座って菓子をつまみはじめた。
中宮「このように皆さんとお話をする機会はたくさんはありませんから」
そう中宮がいうように、実際、仲のいい友人であっても貴族の女性同士が直接顔を合わせて話をする機会はそう多くはない。交流は手紙を用いて行うことが多かった。つまり、ペンフレンドなのだ。
俺も、前の中宮宅訪問の後から、中宮とはペンフレンドの仲だったりする。
でも、やっぱり直接会って言葉を交わすほうが何倍も楽しい。
特に俺の場合、親しくしているのは雪以外は変な神さまばかりだからなおさらだ。他の女房や爺婆などもいるけれど、俺との付き合いは一歩引いているのでこっちも気兼ねする。
中宮にとってもそうじゃないだろうか。神さまはいないけど、周りの女房たちとは友達感覚にはなれないし、俺と違って神さまと親しくしているわけでもないからなおさらなのかも。
その点、俺はあんまり身分差に頓着しないし、中宮と明子は昔からの知り合いみたいだし、中宮にとっては貴重な気の置けない相手なのだろう。
後、雪はどうも中宮のツボに入ったらしく、さっきからカチコチになった雪に話しかけては反応を楽しんでいる。取り入ろうという下心がないのがいいのだろうか?
中宮「ね、雪ちゃんは好きな人っているの?」
雪「あっ、あの、えっとぉ……」
どうも話は恋話に移って来たようだ。中宮の相手は帝と決まっているが、残りの3人はまだ独身。恋話の盛り上がる余地はいくらでもある。
雪は真っ赤な顔をして下を向いてしまって、そんな雪に中宮はぴたりと詰め寄ってなんとか口を割らそうとしていた。
雪「わ、私にはかぐや姫さまがいますから」
中宮「でも、雪ちゃん、こんなに可愛いんだから、男の人が放って置かないんじゃない?」
雪「私、かぐや姫さま以外の方は……」
中宮「えっ」
明子「えっ」
中宮と明子が揃って俺の方を振り向いた。え、えっと……
平安時代はペンフレンドが云々のくだりは想像です。貴族の女性は外にあまり出歩かないから筆まめだったんじゃないか、と思うんですがどうなんでしょうね。ほら、現代でも長電話とか好きな人いるじゃないですか。そんな感じで。
ペンフレンドって、如何にも中二病くさいですけど、なんかいいですよねー。非実在友人的な。いや、中の人はいるんですけど、距離が遠い感じがね。すべて妄想ですが。