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百捌拾陸.ユニフォーム交換

 中宮は美しい赤い上着を着ていた。この色は赤白橡あかしろつるばみといって、厳密に言うと赤白茶色というような中間色をしているのだが、薄暗い室内で見るとむしろ赤みが美しく映えて見える色だ。


 上皇の色とされていて、普通の人は使ってはいけない禁色きんじきの1つに数えられるが、中宮だけに特別に許可を得ているのだろう。


 中宮「かぐや姫さん、ようこそおいでくださいました」

 俺「こちらこそ、お招き頂きまして、大変ありがとうございます」


 略式の挨拶を交わしたところで、中宮が何か問いたげな視線をこちらに向けてきた。


 中宮「かぐや姫さん、その服は?」

 俺「これでございますか?」


 中宮が興味を示したのは、俺と雨が突貫で準備した服についてだった。それも当然だ。なにせ俺たちが着ている服は平安時代の基準ではあり得ないようなものを着ていたからだ。


 俺たちは、この間の温泉旅行の時に撮った紅葉の写真を、そのまま着物にプリントしたものを着ていたのだ。


 まず、雪に真っ白な無地の唐衣、袿を用意させ、並行してデジカメの写真を選んで現像し、写真のどの部分をどう着物にプリントするかを決めた後、染色の魔法を用いて染色していく。この染色の魔法に使う染色液を作るのが大変で、雨をおしおきをちらつかせて頑張ってもらった。もちろん、ご褒美という意味で。


 平安時代の衣服には細かい規定がある。しかし、俺たちの服はあまりにもこの時代の常識から外れているため、すべての禁止事項をパスしていた。そういう意味では、誰でも、どんな身分が低いものでも着てもよいので、俺が着ることに問題はない。もちろん、手に入らないと言う意味で、俺以外の誰にも着ることはできないのだが。


 俺「今日のために特別に用意致しました服ですわ」

 中宮「それは渡来品ですか?」

 俺「いいえ。ここに描かれているのは厳島ですので」


 写真は、厳島の写真だった。このことは取りも直さず、この着物が渡来品ではないことを示している。渡来品なら朝廷に報告なしに輸入することは問題になる可能性があるが、この場合、その点の心配もない。


 中宮「このように不思議な服は見たことがありません」

 俺「そうおっしゃっていただけると、用意した甲斐がありますわ」


 すると、中宮は女房の1人を呼ぶと、唐衣を脱いで言った。


 中宮「これと、交換して頂けませんか?」


 この発言にはその場に集まった皆が驚いた。もちろん、俺も驚いた。中宮が自分の着ている服を与えるというのは非常に栄誉あることだ。しかも、それは禁色で染められているのだ。


 しかし、中宮の立場からすれば、この服はいままで見たこともないほど珍しいものなので、そのくらいの価値は十分にあるということなのだろう。


 俺「ありがとうございます」


 俺の方も雪に手伝ってもらって唐衣を脱ぎ、お互いに脱いだ服を交換してまた着直した。


 中宮「話に聞いていた通り、本当に不思議な方ですね」

 俺「話、ですか?」

 中宮「はい。弟の中納言はここのところいつもあなたの話ばかりですわ」

 俺「それは、もったいないことです」

 中宮「あなたのことだけじゃなく、女房もまた美しいと聞いておりましたが、それは本当のことでしたわね」


 そう言って、中宮は雪と雨の方を見やった。


 雪「あっ、ありがとうございます」


 雪がびっくりしてお礼を言って頭を下げると、雨もそれを見て慌てて頭を下げた。

中宮が着ている服、しかも禁色で染められたものをその場で脱いで交換するというのが当時の制度や常識を考えて現実的かというとあまりそうでもない気がしますが、細かいことは気にせずにお願いします。


中宮は身分差に必要以上に頓着しないちょっと世間知らずなお嬢さまというイメージでいます。


かぐや姫は相手の身分が上なので敬語を使っているという設定ですが、丁寧に敬語を訳出するとくどくなるので、普通よりすこし丁寧な程度の言葉を使っています。

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