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百捌拾弐.神に斎くもの

 俺「あの、天照は無事だと思うわよ」

 イッチー(えっ、だってさっきお母様は邪王に負けて取り込まれてしまったって)

 俺「それは言葉の綾で、つまり、天照は邪王の魅力に負けてとりこになってしまったというか……」


 ええい、中二病なんてどうやって説明すればいいんだっ。


 タギちゃん(邪王様って、そんな素敵な方なんですか?)


 今度は『様』付けっ!


 俺「いや、邪王なんてのは実は存在しなくてって、ええいっ、とりあえず邪王のことも邪王○眼のことも忘れてっ。なかったことに。昨日のは天照が全部やったの。この温泉を作るために」


 俺はちょっと興奮気味に立ち上がって早口でまくし立てたので、三姉妹はポカーンと俺の方を見上げていた。


 俺「温泉っていうのは地下のマグマで熱せられた自然の地下水が湧き出してるもので、こうやってお風呂にすると身体にいいのよ。でも、この辺には温泉がなかったから、天照が昨日ここに作ったの」

 タゴリン(邪王様は温泉が好き……)

 俺「お願いだから、邪王は忘れて」

 雪「かぐや姫さまっ」


 三姉妹と不毛な会話を続けていると、不意に雪に切羽詰まった声で呼ばれた。


 俺「どうしたの?」

 雪「墨ちゃんがのぼせちゃいました」



 パタパタパタ


 あの後すぐにお風呂から上がってのぼせた墨にうちわをあおいであげる雪を片目に見ながら、俺は昨日の出来事をかいつまんで話した。


 イッチー(そんなことが)

 タゴリン(じゃあ、あの温泉はお母様が作った温泉なのね)

 タギちゃん(素敵)

 イッチー(私たちは生まれてすぐにお父様に引き取られて葦原中国に来たから、お母様と話したこともないし、形見になるようなものも持ってないの)

 タゴリン(だから、こんなところでお母様とつながりが持ててすごく嬉しい)

 タギちゃん(かぐや姫さん。今度、私たちの家に遊びに来てね)

 俺「あ、ありがとう。えっと、厳島いつくしまだったっけ?」


 市杵島姫いちきしまひめ田心姫たごりひめ湍津姫たぎつひめの3柱は宗像三女神むなかたさんじょしんと呼ばれて瀬戸内海の辺りでは厳島神社に祀られている。厳島は平安時代には歌枕としても有名だった島で、平安末期に平家の庇護を得て急速に発展したが、今はまだ平和な田舎の島に違いない。


 タギちゃん(そうよ)

 タゴリン(そうだ。ねえ、かぐや姫ちゃん、今日はこれから予定あるの?)

 俺「え? 特にはないわ」

 タゴリン(じゃ、今日は一緒に遊ぼうよ。いろんなところに連れてってあげるわよ。ちょうど3対3だし)

 タギちゃん(タゴリン、それすっごいアイデア)

 イッチー(そうと決まったら、早速行きましょ)

 俺「あ、まだ朝ごはんが……」


 そして、俺たちは朝ごはんを食べた後、龍の姿に戻った3姉妹の背中に乗って瀬戸内海のフライトを1日楽しんで、夜はまた6人で一緒に温泉に浸かって、ロッジで季節外れの怪談話をした後、力尽きて6人折り重なるように寝たのだった。


 ちなみに一番怖い怪談話を披露したのはタゴリンで、一番怪談話に弱かったのはイッチーだった。イッチーは怖すぎて夜中に目が覚めて、1人でおしっこに行けないからと俺に助けを求めてきたくらいだった。曰く、タゴリンやタギちゃんに頼むと後でバカにされるから頼めないんだそうだ。


 かわいすぎて思わず後ろから襲いかかってぎゅーってしたくなったけど、自重した。俺は変態さんじゃないんだ。


 とにかく、今回の目的だった温泉に入ると龍に会うの2つは心ゆくまで達成した。2泊もしたしまあ満足じゃないか。雨も待ってることだしそろそろ帰ろう。

というわけで、温泉旅行編は終わりです。


ちなみに、厳島神社と市杵島姫はどちらも「斎く島」(神に仕える島)という意味で、そもそも厳島神社の名前の由来が市杵島姫であるという説もあるそうです。


次回からはまた平安京ですが、その前に例によって少し充電期間を置きたいと思います。では、また。

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