百捌拾壱.精神汚染
ちょっと凹み気味で温泉の隅っこの方でいじけていたら、しばらくしてようやくイッチーの気分も落着いたらしい。しかし、胸のことは気になるらしく、どこからか取り出した手ぬぐいで胸の周りを縛って隠していた。
イッチー(取り乱しちゃってごめんなさい)
俺「こっちこそ無神経なことを言っちゃってごめんね」
イッチー(いいえ。今のは私が勝手に嫉妬しただけだから)
なんか、かわいい娘だなー。
雪「かぐや姫さま?」
墨「にゃ?」
イッチーのしおらしさに胸がキュンキュンしていると、雪と墨に両側から腕を取られた。ちょ、ちょっと、目が怖いよ。
俺「そ、そういえば、さっきこの温泉のことがどうとか言ってたけど、あれは何のことかしら?」
俺は慌てて別の話題を持ち出した。なんか、このままだと針の筵みたいでいたたまれない。
イッチー(そ、そうよ。忘れるところだったわ。昨日の夜、この辺りの土の中から異変を感じたの。まるで大地震の前兆の地殻変動みたいな……)
タゴリン(前兆っていうか、感覚的には大地震そのものって感じだったの。でも、確かにちょっと揺れてたけど大地震ってほどのことじゃなかったし)
タギちゃん(ちゃんと前のことは覚えてないんだけど、地下水の流れとかマグマ溜まりの位置とかも結構変わってる気がするんだよね)
ああ、それなら心当たりがすごくある気がする。
俺「邪王○眼だわ……」
俺はため息をつきながらぼそっと呟いた。絶対、昨日のやつだ。まちがいない。
タギちゃん(なっ)
タゴリン(邪王……○眼……)
イッチー(それは何かお父様に関係したことで?)
俺「えっと、スサノオというより天照のほうだわね」
タゴリン(お母様が邪王に……!)
イッチー(なんてこと)
タギちゃん(お母様のお力を以ってしても抑え切れない邪王!)
俺「というか、どっちかっていうと、天照が邪王なんだけど」
強いて言えば、目の持ち主は天照だからね。
イッチー(も、もう取り込まれてしまったんですか!?)
俺「あ、まあ、広い意味では取り込まれたと言えなくもないけど」
中二病にな!
イッチー(こうしてはいられないわ。今すぐ助けに行かなきゃ)
タゴリン(ちょっと待ってよ、イッチー。相手はお母様でも太刀打ちできない相手なのよ。私たちだけじゃ無理よ)
タギちゃん(それに、理由もなくこんなの規模の地殻変動をやっちゃうような見境のない相手なのよ。下手に刺激したら世界が大変なことになっちゃうわ)
イッチー(そうかも……)
あれ? なんか変な方向に話が進んでるな。