百漆拾玖.隠し子
龍C(お母様が?)
龍3匹が、いや、今となっては神様だと分かったのだから3柱がと言うべきか、とにかく少女ヴォイスの龍たちがメイド服姿の雪に鼻先が触れそうなところまで近づいてくる。
雪「か、かぐや姫さまぁ……」
俺「頑張って、雪」
くんくん、くんくん
雪には悪いけど、3柱の龍に身体を嗅がれて身を捩らせている雪の表情に、内心にやにやが止まらない。表情を真面目に取り繕うのにさっきから一生懸命だ。ああ、カメラで撮りたいよぉ。
ポンッ、ポンッ、ポンッ
急にポップコーンが弾けたような音が3回鳴ったと思ったら、目の前から厳しい龍の姿が忽然と消えて、代わりに14、5才くらいの少女が3人現れた。
少女A(お母様の匂いだわ)
少女B(それに神力も感じた)
少女C(お母様の加護も持ってるし、その魔法具も。あなたのこと、認めざるを得ないみたいね)
俺「ちょっと待って。さっきからお母様って」
少女C(天照大御神は私たちのお母様よ)
俺、雪「ええーーーーっ」
墨「えーーーーっ」
天照、子供がいたんだ。ってことは結婚してるのか? 誰と?
予想外の事実が発覚してうろたえる俺。いや、別にうろたえる必要はないのだけど、意外すぎてひびる。
大体、あいつが出産とか授乳とかしたのか? だめだ、だめだ。妙な想像をするんじゃない。そんな詳しいラマーズ法の解説はいらない。……、ナマーズ法なんて間違えないよっ!
墨「お父さんは……?」
俺「そ、そうよ。天照がお母さんならお父さんは誰?」
少女B(お父様は須佐之男命よ)
俺、墨「ええーーーー!!」
雪「?」
少女C(私たちは天照大御神と須佐之男命の間で交わされた誓約によって生まれたの)
そうだった。思い出した。確かにそんな神話があった。っていうか、誓約ってのはつまりそういう意味だったのかーー。
ちょ、ちょっと待て。だけど、今は2人は姉弟で、高天原と根の国に分かれて住んでいる。しかも、天照は根の国に行くと天変地異を起こしかねなくて、スサノオには離婚した妻との間にできた娘が大国主と結婚していて、なのにスサノオは根の国から出てこようとしないで、天照は大国主夫妻とは仲良しで……
めっちゃ昼ドラじゃない!?
この間の天照とスサノオの邂逅にはそんな深い裏事情が……。
雪「かぐや姫さま……」
墨「すごく楽しそう……」
俺「はっ。いけない。ちょっとぼーっとしてたわ」