百漆拾陸.プライベート撮影会
雪が着ていたのは、エプロンドレス、いわゆるメイド服だった。いや、たしかに女房=侍女だから間違っちゃいないんだけど。
雪「それにしても、この服、こんなふうに足を見せてしまうのはちょっと恥ずかしいです」
平安装束というのは基本的に肌の露出を嫌う。足は絶対に見せないし、腕だってほとんど見せない。首元は見えても胸元まで見せることはない。そもそも、現代人とは違ってそんなに見せられるほど綺麗な肌でもないのが普通なのだ。
しかし、雪が着ているのはメイド服の中でもファッション性の高いやつで、足の露出が大きく、袖も付け根の部分が膨らんでいる以外は全体的にピッタリして腕のラインが分かりやすいものだった。
俺「か……」
雪「か?」
俺「かわいいわっ!!」
この何ヶ月か、俺が精魂込めて雪に現代的なお肌のお手入れ方法を教えて、東西の魔法具から美容にいいものを片っ端から雪に与えてきた甲斐があったというものだ。
スラリと伸びた手足、きめ細かくお餅のようにしっとりと弾力があって透き通るように白い肌、そして艶があって深みのある黒髪。メイド服のモノトーンの色調に見事にマッチして、まるでお人形のような可愛さを放っていた。
俺「もう、お屋敷でもこの格好でいいじゃない」
雪「それは、さすがにみんな驚いちゃいますよ」
俺「うーん。残念だわね」
遺憾だ。きわめて遺憾だ。家で着るのが無理ならせめて写真だけでも……
俺「そうだ。デジカメがあったんだったわ」
雪「『デジカメ』ってなんですか?」
前にすせり姫から型落ちして使わなくなったといって貰ったお下がりのデジカメがあるんだった。永続化魔法で電池の減りを気にせず使えるという優れものだ。ちなみに、すせり姫は漫画の資料集めに使っているのだそうだ。
欠点は永続化魔法のせいで時計が止まっていることと設定変更が反映されず初期設定に戻ってしまうことくらいだ。もっとも、平安時代がカメラの時計で表示できるか甚だ疑問だが。あと、メモリカードだけは永続化すると写真が保存できなくなる関係で魔法を掛けていないため、データが飛ぶ可能性は残っている。
とにかく、デジカメだ。こんなときに使わないでいつ使うのか。
俺「はい。いいわ、いいわよ。綺麗だわよ」
雪「こ、こんな、恥ずかしいですぅ……」
というわけで、急遽撮影スタジオと化したロッジには、ちょっと興奮し過ぎで目つきが怪しくなっているカメラを構えた和服の美女(=俺)と、恥ずかしがりながらもちょっときわどい要求に答えるメイド服の美少女(=雪)、そしてそれを若干引き気味で見ている猫耳美幼女(=墨)が、朝ごはんも食べずに撮影大会に興じていた。
俺「せっかくだから、墨も入って」
墨「にゃ」
俺「そういえば、前に天照に貰ったワンピースがあったはず」
墨「にゃにゃっ」
ああっ。天使が2人いる。
前にも言ったことがあるが、2人とも胸があんまりないのがいいっ。雨には悪いけど、その点はあいつとは分かりあえない。いや、分かりあいたいとも思わないけど。
俺は神々しいまでの2人の女神を前に、シャッターを切りまくった。心は正に篠○紀信。まだヌードは撮影してないけど。
俺「ヌード……」