百漆拾.シティー・○ンター
測ったように同時に来た連絡は、関白と大納言からのものだった。それは、課題の品の捜索のため、しばらく京を離れるとの内容だった。
連絡が同じになったのは、貴族が畿内を離れる場合に必要な朝廷の許可が下りるタイミングが同じだったのだろう。何のために京を離れるのか誰もが知っていることだから、タイミングを前後させて無用な軋轢を生みたくなかったに違いない。
俺としては見つかりっこないのにご苦労様なことだと、適当に激励の言葉を返しておいた。
そしてさらに1ヶ月ほどの時間が過ぎて、風の噂に大納言が帰京したとの報を耳にした。
俺「大納言が帰ってきたらしいわね」
雪「そういう噂ですが」
俺「何か見つけたのかしら」
雪「どうなのでしょう。まだ何も正式な連絡は頂いておりませんので」
大納言の性格なら、何か手に入れたらすぐに俺のところに来そうなものだけど、全く音沙汰もないというのも不思議だ。
俺「三羽烏」
三羽烏(カァカァ。お呼びですか?)
俺「大納言のこと、何か知らない?」
人々が求婚に押しかけて来なくなってから、三羽烏には普段から京を巡回して、何か変わったことがないか見張らせているのだ。特に、5人の公卿はいつズルをするか分からないからね。
3羽はお互いに顔を見合わせて1羽が口を開いた。比喩的な意味で。
三羽烏(大納言はおととい何か怪我をして帰ってきた様子で、今も床についたままのようですよ)
俺「怪我?」
三羽烏(目立った外傷はないみたいですけど、腰が抜けたように立てないみたいで、屋敷の中でも這い回っているのを見ました)
俺「いったい何が……」
三羽烏(あいにくそこまでは。ご主人さまが男装して大納言の女房をナンパして聞き出して見たらどうですか?)
俺「おお、それはいいアイデア……なわけないでしょっ」
三羽烏(ひえっ)
俺が怒ると三羽烏は恐れをなして一目散に逃げていった。それにしても、ナンパして聞き込みって探偵みたいでちょっとかっこいいかもな。
雪「どうしました、かぐや姫さま。お出かけですか? 狩衣なんか取り出して」
俺「えっ、ああ、ちょっと虫干しでもと思って……」
結局、俺がナンパに出ることはなく、俺の屋敷の女房たちの間でのうわさ話や爺が宮中で見聞きした内容を総合することで、大納言の怪我の原因がおおよそつかめてきた。
どうやら大納言は、京を離れている間に瀬戸内海へ龍を探しに行っていたらしい。そこで本物の龍を見つけて頸の玉を取ろうとしたのだが返り討ちにあって、船の上で背中を強かに打ちつけて立てなくなってしまったようだ。
雪「大納言さま、お体は大丈夫でしょうか」
俺「大丈夫でしょ。三羽烏によれば最近は少しの間座るくらいはできるようになってきたみたいよ」
そんなことより、龍が瀬戸内海にいるなんて知らなかったな。
俺「最近、だいぶ寒くなってきたわよね」
雪「え? ええ、そうですね」
俺「温泉が恋しい季節になってきたと思わない?」