表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/362

百陸拾捌.不老不死

 俺「雪?」


 俺は思わず雪に声を掛けた。雪は下唇を噛んだまま虚空の1点を見つめていた。怒っているに様子でもがっかりしている様子でもなく、何か思い詰めたような表情だった。


 俺「あの、ごめん……」

 雪「ごめんなさい」

 俺「え?」

 雪「私、また喜んでいました……」

 俺「なんで……?」


 一体、あの話のどこに喜ぶ要素があったんだろう?


 雪「かぐや姫さまが未来に帰らなければ、私とかぐや姫さまの関係はこのままで、いつまでも私はお仕えすることができます」


 ああ、そうか。俺はまた自分勝手に考えていたんだ。雪にとってみたら現代なんて想像すらできない遠い世界の話で、そんなところに行かなくてもよくなって安心こそすれ、がっかりするはずがないじゃないか。


 俺は自分の考えの至らなさに呆れながら、雪が怒らなかったことに安堵したが、雪の話はまだ続いた。


 雪「でも、かぐや姫さまはそうではないですよね。生まれ故郷を失って、帰る望みも絶たれてしまって、私1人が喜んでる場合じゃないですよね」

 俺「大丈夫だよ。永遠に帰れないわけじゃないし、100年経ったら帰れるんだから」

 雪「100年なんて帰れないも同じじゃないですか」


 雪はどんなときでも俺のことを一番に考えようとしてくれる。そして俺が悩むよりも前に悩んでくれるんだ。それなのに、俺は現代に帰れなくなったことを雪に相談しなかったんだな。


 そう思うと、俺は思わず雪を抱きしめていた。


 俺「大丈夫。雪と一緒なら100年なんて大した事じゃないよ」

 雨(そうそう。100年なんてあっという間だって)

 俺「何年経っても年を取らないあなたたちと一緒にしないで」


 空気の読めない雨の発言に、俺はやんわりとツッコミを入れておいた。


 雨(何言ってんのさ。ご主人さまだって年なんか取らないじゃないか)

 俺「ぐぅ。わ、私は心は人間なんだからね!」


 体の方はなんかやたらと改造されてなんだかよく分からないことになってるけど、心は雪と同じなんだ。人間の心はもっと繊細なんだよっ。


 天照(心……)


 天照が呟く声が聞こえて何気なく振り返った時、俺の目に映ったのは天照の目から大粒の涙が溢れている様子だった。


 俺「どうしたの、天照?」


 しかし、天照は首を振るだけで何も答えることはなかった。口を開くと漏れてしまいそうな嗚咽を抑えることに必死で、それ以上の何もできないようだった。


 そして、俺も雪も雨も墨も、何が起こっているのか分からないまま、皆、ただそんな天照を見つめることしかできなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この小説は、一定の条件の下、改変、再配布自由です。詳しくはこちらをお読みください。

作者のサイトをチェック
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ