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百陸拾漆.記憶の彼方

 近くの広場は年上の子たちがボール遊びをしてて、その他に同級生の子たちの溜まり場がどこにあるのか知らなかったから、いつも少し離れた人気のない神社で虫取りをして遊んでいた。


 ある日いつものようにその神社に行ってみたらいきなり空から気を失った女の子が降ってきたんだ。


 慌てて受け止めたはいいけど、飛行船がどうとかよく分からないことを言ってて、しかもなぜか意味は分かるんだけど聞こえる音が日本語の音と違う気がしたから、とっさに外国人だって思ったんだよな。


 今から思えば、そもそも唇も動いてなくて日本語どころか何の声も出てない念話だったんだ。それに飛行船に意味がないことも……。


 とにかく、他に誰も遊び相手がいなかった俺は毎日一日中その子と遊ぶことになって、外国人だと思い込んでた俺は一生懸命日本語を教えたんだっけ。


 でも、夏休みの終わり頃になって、急に姿を消してそれっきり会ってなかったから、今の今まですっかり忘れてた。


 俺「あの時の……」

 天照(思い出した?)

 俺「ごめんなさい。今の今まですっかり忘れてたわ」

 天照(しかたないよ。忘れるようにあたしが仕向けたんだから)

 俺「え? なんで?」

 天照(神様が人間に直接接触した記憶を残すのはよくないこととされてるの。だから、別れるときには、記憶はすぐに忘れるように、それから人には話さないようにと暗示をかけるのよ)

 俺「そうなんだ。じゃ、私が悪いわけじゃないのね」


 そう言って、俺は雨の方を少し得意げに睨み返してやった。


 雨(なんで僕だけ?)

 雪「そうか。天照さまもかぐや姫さまから学ばれたんですね」

 天照(そうよ。姫ちゃんは教えるのうまいからすぐに上達するわよ)

 雨(ねぇ。ところで、結局なんで雪は現代語なんて勉強してるの? あと100年くらい未来には帰れないのに)


 なっ、な、な、な、なんてことをお前はっ!!


 雪「えっ、どういうことですか?」

 俺「いや、あの、えっと、これは……」

 雨(あれ、もしかして、今の言っちゃダメだった?)


 いまさら気づいたように雨が小声でぼそっと呟いていたが、完全に後の祭りだった。雪は心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。俺はとても雪の目を直視できない……


 天照(あたしが説明するわ)


 そして、うつむく俺の隣で、天照は大国主のところで聞いたのと同じ説明を繰り返した。罪悪感で顔が上げられないので雪がどんな表情で聞いているのかわからないが、声も出さずに聞いているところからきっと驚いているのだろう。そして、きっと怒っているに違いない。


 ついこの間、俺は全部雪に話す、隠したりしないと約束したのだ。俺はあの時、雪に偉そうなことを言ってしまった。そんな俺が舌の根も乾かないうちに自分の言葉を裏切るなんて軽蔑されてもおかしくないよ。


 天照が話し終わった後も、雪は黙ったままだった。


 俺は沈黙に耐え切れなくなって恐る恐る顔を上げた。そこで俺が見たものは全く意外なものだった。

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