百陸拾肆.食欲の秋の夜長の月夜
さて、昼間は雨を女の子にして、屋敷のみんなに紹介して終わってしまったけれど、今日の本番は実は夜にある。
俺「晴れてよかったわね」
雪「そうですね」
見晴らしのよい縁側に宴席の準備をして、俺と雪は隣り合って座っていた。
雨(なんで僕だけお風呂1人なんだよ。女の子になったはずじゃなかったのかー)
俺「女の子なのはその服を着てる間だけよ。脱いだら男に決まってるでしょ」
いつものように俺たちがお風呂に入ろうとするとなぜか雨まで入ってこようとしたので、手早く縛り上げておいて俺たちが出た後に風呂に投げ込んだのが、ようやく出てきたのだ。
ところで、どうしてこんなふうに宴席を設けているかというと、今日は長月13日の十三夜のなのだ。
え、十三夜、知らない?
お月見といえば葉月15日の中秋の名月が有名だけど、それと並んで長月13日の十三夜もポピュラー、というかこの2つは両方見なければ月を見たことにはならないというほどなのだ。以後欠けるだけの満月に対して、これから満月を迎えようとする十三夜の月を喜ぶというのがいかにも通っぽい。
雨(それにしても、人間は変なやつらだなー。あの月☆読を眺めて喜ぶなんて)
俺「そういう言い方はやめてくれないかしら?」
そう言いながら雨は俺の隣に腰を下ろそうとした。
ゲシッ
雨(キャン)
俺「ここは墨の席よ。あなたはあっち」
まだ西の空に明るさが残っているが、東の空にはもう月が登ってきている。そろそろ始めてもいい頃合いだ。
俺「よし。じゃあ、始めましょう。とりあえず、雨、何か芸を一つやってちょうだい」
雨(えー。僕、まずお酒飲みたいよ、浴びるほど)
俺「浴びるほどお酒は用意してません。いいからやって」
雨(じゃあ、ご主人さまのためにストリップショーを一つ……)
俺「そんなに服を脱がされるのが気に入ったの?」
雨(……ごめんなさい)
そんなこんなでわいわいとやっているうちに、もうすっかりあたりは暗くなってしまった。庭では様々な種類の虫達が大合唱を繰り広げている。
墨「……美味しそう」
俺「ええっ」
その時、不意に何か柔らかいものが背中に当たってきた。
?「隙ありーーっ」
俺「ひゃぁん」
そして脇の下から伸びてきた手が俺の胸を鷲掴みにする。……、いきなりこんなことをするやつなんて俺の知っている限り1人しかいない。