百陸拾弐.団欒
俺『んーっ』
気持ちよく目が覚めた俺は大きく伸びをして朝の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。やっぱり自分の家は落ち着くな。
天児屋(んー。んー。んー)
庭の小鳥の声も風情があっていいね。小鳥のさえずりに起こされるなんて幸せだね。
天児屋(んー。んー。んー)
俺「墨、おはよう」
墨「おはようございます」
俺が起きたのにつられて墨も目が覚めたようだ。まだ眠いのか目を半分閉じて耳をぴくぴくさせているのが可愛い。
雪「おはようございます、かぐや姫さま」
俺「おはよう、雪」
天児屋(んー。んー。んー)
雪「……あの、そちらの方は、いつまで……」
雪が恐る恐る部屋の隅を指差すと、そこには手足を縛られて芋虫のようになった天児屋が唸っていた。
俺「念話で話してるのに、どうして猿ぐつわくらいで唸り声しか話せなくなっちゃうのかしら?」
天児屋(…………)
冷静に突っ込むとさっきまでうるさく唸り声をあげていた天児屋は急に黙ってしまった。
俺「さ、向こうに行って朝ごはんをいただきましょ」
天児屋(ちょ、その前にこれほどいてよっ)
俺の方針でご飯は雪も含めて全員で一緒に食べることにしたので、人数が4人に増えた今は俺の居室より広い別の部屋を食堂として利用することにした。ちなみに、夕食を時々爺と婆ととる習慣はそれとは別に今でも続いているから安心してね。
雪「あの、かぐや姫さま、こちらの方は一体……?」
朝食の席で、雪はやっと昨晩から気にかかっていたことを口にした。
俺「天児屋尊だよ」
雪「へ……、え? ええっ!?」
俺「ちょっと天児屋、ご飯食べてないであいさつしたら?」
天児屋(へん、おほあまあんあひよういははいへ)
俺「だから念話なのになんでご飯を食べてるくらいで……」
天児屋(気分だよ、気分)
雪「ちょ、ちょっと待ってください。天児屋尊って、あの春日神社の神さまですか?」
俺「そうだよ」
雪は驚愕の表情で俺と天児屋の顔を交互に見た。
天児屋(ご主人さまは僕に愛のムチをふるって、僕を下僕にしてくださったんだ)
天児屋はうっとりとした表情で頬に手を当てて言った。ご飯粒を反対の頬につけたまま。
俺「気持ちの悪い言い方をしないでちょうだい」