百伍拾漆.頂上決戦
天照『くっくっく。たかが三貴子の末子であるお前が、長子であり太陽の現身であるあたしに敵うと思うのか?』
スサノオ(それでも行かせるわけにはいかない。お前がこれ以上地上に近づくと、木々は焼け、土は溶け、生き物は死滅する。この根の国を預かる身としてそれは許されない)
天照『なら、力づくで通るだけ』
会話だけを聞いているといつもの平常運転の天照だが、周りの反応は違った。木々も岩も生き物も、ありとあらゆる自力移動が可能なものはことごとくこの場から撤退を開始していて、いつの間にか俺たちの周りは禿げ上がった地面が広がるだけになっていたのだ。
天照『てえぇぇぇぇっ』
スサノオ(むんっ)
ピカッ、ドオォォォォォォォンンンン
頭上ではすでに始まったらしく、一瞬の閃光と、それに続いて雷鳴のような音が鳴り響いた。
……、つまり、あれだ。これは世界の滅亡をかけた姉弟げんかとかそういう理解でいいのかな? 昔、高天原であったスサノオが追放されるきっかけになった事件も、元をたどれば実はこういう喧嘩だったりしないよね……
天照『風よ吹け。嵐を起こせっ』
スサノオ(水よ鎮まれ。雲よ去れっ)
天照が仕掛け、スサノオがそれを受けるという展開が続いている。今のところスサノオが完全に受けきっていて地上には全く被害が出ていないが、一つ間違えたらこのあたり一帯の地上が吹き飛んでもおかしくないじゃないか。どう見てもヒールです、天照さん。
俺『スサノオッ、加勢する』
俺は素早く八咫烏の羽を使って飛び上がるとスサノオの隣に並び立った。
天照『なっ、姫ちゃん、なんで!?』
俺『お前、さっきからやってることめちゃくちゃじゃないか。世界を滅ぼす気かっ!?』
天照『あたしは、姫ちゃんを迎えに来ただけなんだよ。それなのに……。はっ、もしかして、姫ちゃん、もうスサノオに身も心もアレもソレも……』
俺『んなわけあるかぁぁぁぁぁっ』
天照『だめだよ、姫ちゃんはあたしのものなんだから。大丈夫。ちょっとくらい穢れたってあたしが浄化してあげるから。いっそのことこの根の国ごとまとめて……』
俺『さらっと黒いこと言ってんじゃねぇ!!!』
天照『あいてっ』
俺は瞬速で近づいて思いっきり天照の頭を張り飛ばしてやった。見たか。これが熟練した突っ込み職人の技だ。
天照『姫ちゃん、ひどいよ~』
俺『ひどくない。ひどいのは物騒なお前のほうだ。見ろ、お前のせいですっかり地面が禿げ上がってるじゃないか』
天照『おおー。じゃ、ちょっと一発地形でも変えてみますか』
俺『反省しろっ』
バチコン
天照『痛いじゃないか!』
俺『自業自得だ。大体、お前は何をしに来たんだ』
天照『だから、姫ちゃんを迎えに来たんだよ』
そう言うやいなや、天照は俺にタックルをかましてきた。……、もとい、胸に飛び込んできた。
天照『空から見てたらいきなり姫ちゃんが黄泉比良坂に入ってくじゃない。びっくりしちゃって。しかも、すぐに出てくるかと思ったら全く出てこないし。あんまり焦ったから日没がいつもより10分くらい早くなっちゃった』
俺『うぉいっ!!』
天照『でもっ、姫ちゃんが無事で本当によかったよー』
俺『天照……』
天照は俺の胸に顔をうずめて泣きじゃくっている。本当に心配しててくれたんだな。
天照『姫ちゃんのおっぱいが無事で本当によかったよー、ぐへへ』
俺『いっぺん死んでこいっ!』