百伍拾伍.やもお
俺(あ、大国主とは知り合いなんでしたね)
スサノオ(婿だ)
俺(大国主とすせり姫にはお世話になっています)
スサノオ(そうか、すせりと知り合いだったのか。2人とも元気にしてるか?)
俺(……ええ、とても……)
元気にしてることは、まあ、間違いない。萌豚になったり薄くない本を描いたりしているが、充実した日々を送っていることに異論はないはずだ。
俺(あれ、そういえばスサノオさんはお1人なんですか?)
なぜか本能的にスサノオはさんを付けなければいけないような気がした。生物としての格の違いというか、ぶっちゃけや○ざの大親分みたいなんだもん……
スサノオ(スサノオでいい。すせりが出ていってから、もうここにはずっと1人だ。こんなところに住みたいものなんていないからな)
俺(そんなこと……)
スサノオ(いやいや、事実だよ。ここはあらゆるものがすぐに変わってしまう。何かを作っても長く保つことはない。この家も毎日修理をしなければ数日で崩れてしまうはずだ)
俺(そんなに過酷なところなんですか)
道理でスサノオの家が山荘みたいな建物のはずだ。これ以上立派な建物を作ってもそれを維持することができないのだ。というか、ここでこの規模の建物を維持できるということ自体、きっとスサノオだからこそできることだということなんだろう。
スサノオ(妻はここの暮らしに合わなくてすぐに葦原中国に戻ってな。すせりは手元に残したかったのだが、大国主に取られてしまった)
俺(なんでスサノオはここに残ってるんですか?)
スサノオ(ここは別名死者の国と呼ばれていることは知っているだろ?)
俺(はい)
スサノオ(それはここにありとあらゆる災厄の種が潜んでいるからなんだよ。人は死ぬとここに来て、生前に受けた穢れをすべて落とすまでここに留まって、それからまた葦原中国に生まれ変わるんだ。そうやってここには穢れが蓄積されて来たんだな)
俺(そうなんですか)
スサノオ(俺がここを離れると、管理者のいなくなった災厄がいつ地上へ溢れだすかわからない。実際、俺がここに来る前は、度々災厄が葦原中国に溢れだして手がつけられない状態だったしな)
俺(……)
この話を聞いて、俺ははっきりいってスサノオのことを尊敬した。男気なんてもんじゃねえぞ、コノヤロウ。
スサノオ(や、ちょっと話しすぎたな。そろそろ寝るといい。明日は朝一番に黄泉比良坂まで送っていこう)
俺(スサノオ。……、なんていうか、かっこいいな。尊敬するよ)
スサノオ(……、いや、俺はそんなかっこいいもんでもないよ……。寝るならここで寝てくれ。この時期なら冷えることもないはずだ。俺もその辺で寝る)
そう言うと、スサノオはさっと立ち上がって明かりを消すと、部屋の隅の方へ行って横になった。
俺は寝ている墨の側に行くと、いつものように墨を抱き枕にして眠りに落ちた。
「やもお」とは妻をなくした男のことで、「やもめ」の対義語です。「男やもめ」という言い方もあります。語源は「屋守男(女)」だそうで平安時代には使われていた言葉のようです。
えっと……、はい、そうです。櫛名田姫は離婚してスサノオを置いて出ていってしまっていました。すいません。いや、だって、正直、現実的に考えて一緒に暮らせる人じゃないじゃないですか。