百伍拾参.おじいさんは山へ……
スサノオ(はっはっは。まあ呑め)
俺(呑みません)
案の定というかなんというか、マッチョはスサノオだった。
一度は死を覚悟した俺だったが、スサノオの拳は俺の頭の上を通過して、後ろにいた醜女に向かって振り下ろされたのだった。そして、気がついたら取り囲まれていた醜女の一団を1人残らず撃退して、今、俺は山荘の中に案内されてなぜか盃に酒を注がれそうになっているのだ。
スサノオ(それにしても危なかったぜ。あいつらは厄介なやつらでね、危うく死にかけたな)
これは命を助けられたということなのだろうか。それにしてもどのタイミングで醜女に狙われているという状況を知ったのだろう。
スサノオ(いやびっくりした。本気で柴刈りをしてる時にふと顔をあげたら、俺の家の前で女の子が醜女に襲われそうになってたんだからな。思わず本気で走ったよ)
(初めからか! しかも本気の柴刈りって!?)
スサノオが危害を加えるつもりがないことが分かった後も、天児屋はまだ怖いらしく部屋の隅の方でブルブルと震えながら土下座している。墨は慣れたらしく俺の隣でスサノオの話を聞いているが、強面の顔が恐ろしいのか、視線が来ると避けるように俺の身体の後ろに隠れようとする。
俺(あの、それで……)
スサノオ(分かってるって。帰り道だろ。ま、もう今日は日が暮れるから明日送ろう)
(今日はここで一泊か。まあ、野宿にならなかったのはありがたいかな)
スサノオ(じゃ、飯にすっか。もぐらは好きか?)
俺(いや、食ったことないし!)
スサノオ(鍋にすると美味いぞ。食ってみろ)
スサノオが食事の準備をするために部屋を出ていくと、ようやく天児屋が顔を上げてふらふらと俺の側に近づいてきた。
天児屋(くっ。さすがスサノオ。面魂からして極悪さがにじみ出ている)
俺(そうか? 見た目に反して、むしろ中身は俺の見た神さまの中では一番まともだと思ったけどな)
天児屋(ごっ、ご主人さまは騙されてるんだっ)
俺(うーん。そうかなぁ)
天児屋(そうだよ。もう、早く逃げようよ。こんなところにいたら、鍋にして食べられちゃうよ)
シャッ、シャッ、シャッ
天児屋(ほ、ほ、ほ、ほら、あれ、包丁を研ぐ音だよっ)
俺(そりゃ、食事の支度をするんだから包丁くらい研ぐさ)
天児屋(何言ってんだ。僕達が食べられるんだよっ)
俺(ま、まさかぁ)
なんだかあまりにも天児屋が真剣に言うものだから、俺までだんだん心配になってきた。さっきから黙って会話を聞いていた墨の顔色も真っ青になっている。
スサノオ(誰か、1人こっちに来て手伝ってくれよ。ちょっと押さえててほしいものがあるんだ)
天児屋(来たっ)
墨「ひっ」
天児屋(これは罠だ。もし1人で行ったら、その場で取り押さえられて鍋にされちゃうんだ。ダメだ。行っちゃダメだっ)
俺(な、何バカなこと言ってんだよ。そんなわけないだろ。大体行かなきゃご飯が食べられないじゃないか)
天児屋(ぼっ、僕は絶対行かないぞっ)
俺(分かったよ。俺が行ってくるよ)
墨「かっ、かぐや姫さまっ」
俺「大丈夫だよ、墨。そんなことより、帰ってきたら……」
天児屋(不吉なことを言うなっ)
柴刈りっていうのは芝刈りではなく、山の下草や雑木を刈ることです。桃太郎のおじいさんはゴルフ場の清掃員ではなかったんです。
連絡です。度々申し訳ありませんが、金曜は私用でお休みさせていただきます。次回更新は月曜です。